漁協系統組織のありがたさ

2019年1月24日

 本連載78回で紹介した「答志島トロさわら」のシーズンが終わった。その際「よい魚にブランドシールを貼るとほかの魚の値段が下がり、全体として売り上げが減る」という心配からシールを剥がす仲買人との根比べで、最後は消費者の判断が決めるといったが、結果は漁師の完勝であった。昨年漁期と比較するとシール付きはキロ200円、ほかの魚も50円単価が上がった。しかも水揚数量が昨年より多かったにもかかわらず。

 先日東京のミシュラン二つ星料理店の料理長2人に、トロさわらを使ってみた感想を答志島で語っていただいた。不思議なことに、美食家やプロの料理人ほどその脂の乗ったトロさわらを高く評価したという言葉に多くの漁師が元気づけられた。

 しかし決して楽勝ではなかった。ブランド化をさせまいとする一部の仲買人が、市場のセリでシール付きの魚を全く買わず、ない方を高く買い始めたからである。シールを貼る漁師がどんどん減ってきた。困ったどうしよう。その時である、永富洋一組合長が漁連に「何とか応援してほしい」と要請し、また自ら豊洲市場などに出向き宣伝して回った。これを受け漁連の仲買人が今度は逆にシールのある魚しか買わないようになった。しかもシールを貼り続ける漁師の努力に応えるために、ほかの仲買人に負けない価格で買ってくれたのである。あとで聞いた話では、このころ漁連は毎日赤字だったらしい。

 そうして1か月ほどたったころか、突然ほかの仲買人がシール付きを買い始めた。マスメディアで盛んに報道されたこともあり、出荷先から注文が出始めたのであろう。困った時には助け合う漁協系統組織のありがたさをつくづく感じた。私は仲買人を批判しない。自己利益第一が彼らの行動原理であるから。これは赤字になったらさっさと養殖から撤退した企業も同じ。その企業参入にすべてを懸ける水産改革で本当に大丈夫かと思う。