漁協は人でこんなに変わる

2016年5月26日

 4年前、私が熊野市に移り住んだのにはある事情があった。まだ水産庁にいたころ、当時の熊野漁協の組合長が漁協を私物化したような人物で、それに困ったある地区の漁業者が相談に来た。いろいろアイデアを出して、組合長を退任に追い込むことに成功したが、前組合長の影響力を恐れ、ほかの地区からはだれも新役員になろうとしない。これではその地区だけで全役員を務めざるを得ず、前組合長派の巻き返しも予想される中、組合運営に対する不安があったが、私が退職したら必ず熊野に行くから、それまで耐えてくれということで異例の発足となった。

 その後、予想した通り新組合長が途中で退任し、副組合長と交代するなどの混乱があったが、今の山下寿組合長になって3年、漁協は劇的に変わった。それがいちばん表れたのは職員の態度。以前は質問しても下を向いたままだったが、今は積極的に発言し、新たな仕事に意欲をもって取り組んでいる。

 山下組合長の何が漁協を変えたのか。ひと言で言えば、私欲のかけらもないその「朴訥」とした人柄と思う。ある問題をめぐって私と議論した時「理屈ではそうかもしれない、しかし、浜には浜の法律というものがある」と言われ、その感覚こそが浜のリーダーに必要なものかと気付かされた。若干心配されたのは、そのケンカ早い性格であったが、逆によい方向に作用している。組合員がおかしなことを言うと「ダメなものはダメだ」と真っ赤になって怒り始めるが、結果的にそれが信頼感を生んでいる。組合員によい顔をするだけの組合長では、浜は好き勝手なことをする漁業者だらけになる。

 熊野市は新執行部を信頼して中止していた漁協支援を再開し、なんと漁協の負担ゼロで新市場や直販所を作ってくれた。直販事業も3年をして採算がとれ始め、それを土台に次は加工場の建設を予定している。漁協とは性善説でできた組織である。よくも悪くも人によってこんなに変わるものかとつくづく思う。