海女さんの死(前編)

2016年7月22日

 全国ニュースでも報道されたが、答志の海女さん(76歳)が潜水中に亡くなった。この海女さんは漁協答志支所長の義理のお母さんだったので私にも身近なことに感じられた。死とは人間にとっていちばんの不幸である。しかし、いろいろ事情をお聞きすると、ご遺族には不謹慎と思われるだろうが、私にはそのような死に方がうらやましいと思えてくるのである。

 答志では海女作業中に、毎年続けて亡くなられたこともあったとのことで、なんとお姉さんも同じように亡くなられた。もともと海女は厳しい仕事であり、それに高齢化が進んだためであろう。そこで誰もが抱く疑問は「そんなお年寄りをなぜ危険な海女に行かせるのか」である。全くその通りで、実は今回もご家族だけでなく親戚中から「おばあさん、海女に行くのはもうやめなさい!」とさんざん言われていたらしい。当日も息子さんが漁場に連れていくことに難色を示したが「連れて行かないのなら、自分一人で岸からでも行く」と言い張られ、その方がより危険なので、やむなく船を出したとのこと。

 一体、この死をも恐れぬ海女の魅力とは何なのか。周りの人に聞いたら「高価なアワビを採ったあの場所が忘れられない」「陸では足腰が痛くても海では体が軽くなり負担にならない」「他人はどうあれ自分だけは大丈夫と思っている」などいろいろあった。中には「海の神様に呼ばれたのかも」という背筋が寒くなるが、意外と説得力がある?珍説もあった。

 以前、海女漁が盛んな石鏡(いじか)出身のご婦人に聞いた話では「本日海女漁あり」を知らせる漁協のサイレンが鳴り始めると、だんだんと興奮し血が沸き上がってくるそうである。縄文時代以来の狩猟民族としての本能が刺激されるのであろう。海女の魅力とはやったことがない人には、言葉で説明できないようである。

 このどうしても漁に出たいという思いは、高齢の漁船漁業者にもあり、行かせたくない家族との間での駆け引きが興味深かったので、それを後編で紹介したい。(佐藤力生)。