海女さんがボンベを使わない訳

2016年4月25日

 私の研究課題の1つは、海女さんはなぜボンベを使わず苦しい思いをして素潜りするかである。昨年、海女サミットが鳥羽市で開催され、2日目の行事は答志島であった。その様子が日本離島センターの雑誌「しま」の最新号で紹介されたが、壱岐では「ウエットスーツまで禁止」との徹底ぶりには恐れ入った。

 生産性の向上を最高の価値観とする現代社会において、かたくなに文明の利器を否定しているのは、資源管理以外の何かがあるはず。そんな時偶然にも、ヒトラーがアウトバーンの建設で「機械は使うな、人手でやれ」と指示したことを知って「えー」と思った。調べたらなんと「機械使用の制限に関する法」なるものが存在し、その目的は第一次世界大戦での巨額賠償金による経済の崩壊で生じた600万人の失業問題を解消するためだったらしい。例えば、第一次失業減少法で行った公共事業費に占める賃金割合は70%で、今の一般土木建築工事業の売上高に占める人件費率17・4%と比較すると驚きである。

 歴史上の超極悪人「ヒトラー」は、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」で全否定されているが、その経済政策でドイツを世界大恐慌からいち早く立ち直らせたことは事実。ゆえに熱狂的に国民に受け入れられたという。また、大不況期にもかかわらず生活消費を増加させる効果を狙い、結婚奨励金や家事手伝いの奨励により、女性を労働から家庭に送り込むことを奨励したとあり、今の日本政府の方針と真逆の経済センスに感心してしまう。

 話を元に戻すが、私の知っている漁村においては、海女漁は家の職業にかかわりなく、地域の女性すべてに開放されている。おそらく海女漁とは、儲けではなく、磯根資源を利用した地域住民の生活維持に存在意義があると思う。ITやロボットにより人間の職場が失われているのをみると、効率化は寡占化を生じ、地域の崩壊につながる。海女漁はその非効率さゆえに縄文時代から続き、今後もボンベを使わない限り持続できると思う。