森は海の反面教師

2018年7月30日

 東京大学大学院鈴木宣弘教授は、農林水産業全体を通じた視点から規制改革の問題点を鋭く追及されており、最近鈴木教授が日本農業新聞に投稿された林野改革の記事を読んで驚いた。そこには「森林経営管理法」がこの5月に可決され「経営意欲の低い経営者」の山を市町村が取り上げ「意欲と能力のある経営者」にやらせることになったとあった。海でこれから起ころうとすることが山ではもう法律になったのである。しかも土地所有権で守られている山であろうとも、本人の同意なしで強制的に経営権を取り上げることができるとある。規制改革とあらば、法律違反もいとわないのは知っていたが、ついに憲法29条(財産権)違反までやり始めたその「意欲と能力」には驚嘆するばかり。山がこれでは海も心配。今回限りは「森は海の恋人」ではなく「森は海の反面教師」にしなくては。

 特に関心をもったのは、不同意森林所有者から強制的に経営権を取り上げる際の基準であり、そこに「不同意森林の自然的経済的社会的諸条件、その周辺の地域における土地の利用の動向その他の事情を勘案」とあった。私の感想は「こんな森羅万象を考慮するのが基準といえる? 恣(し)意的な運用の歯止めに全くなっていない!」であった。おそらく漁業権の優先順位の廃止に代わる「水域を有効かつ効率的に利用」の判断基準もこれと同じになろう。規制改革派が自己の強欲の隠蔽(ぺい)とその行為の正当化に使う「意欲と能力のある者」も主観的で基準にはならない。その点で現漁業法の優先順位は客観性をもっており、当時の役人の優秀さがしのばれる。

 ところで「反面教師」とは「間違った組織は少数の間違った人物が中心となって構成されている。あえてこれを除外するのではなくその醜態を見せつけることで類似した者の増殖を防ぐ」を意味するが、水産政策改革を水産庁若手職員育成のためのあしき教材にするのだけはやめてほしい。