売れ残らないこと

2016年9月5日

 ある日、答志市場に奈良県の小・中学校の100人近い生徒が同時に見学に来た。いつもの説明役の中村幸平委員長だけでは、手が回らないので、私も「何か質問があったらしてね」と声をかけたら、次々と質問をしてきた。その中に「売れ残った魚は明日まで生かしておくのですか」があった。市場をお店の魚売場と同じと思った素直な質問であるが、市場で「売れ残り」など考えたこともない私は一瞬ギクッとし、それは到底ひと言では説明しきれない鋭い質問であることに気付かされた。

 市場ではよほど鮮度の悪い魚でない限り、必ず誰かがタダ同然の価格であってもセリ落とす。しかし、そう説明すれば、次の質問「安く売っても困らないのですか」がくる。これには「イヤー困る」と答えるしかないが「じゃーどうするんですか」と問われると、答えに窮してしまう。

 私はそこまで詰問されなかったが、子供相手の説明に慣れた中村委員長は、その時には漁協による「買い支え」を説明するという。しかし、これも簡単な話ではない。そもそも仲買人が安い価格でしか買わないのはそれなりの理由があり「それ以上の価格で買い支えると漁協は赤字になりませんか」と突っ込まれることになる。

 しかし幸いなことに、答志支所ではその先の答えがある。市場の隣にある加工場で付加価値を高めて売ることで、漁協は赤字にならなくても済むのである。意外にもこの加工事業が漁協の収益源として育ってきており、例えば旬を外れた安い魚にひと手間かけフィレー凍結した商品に需要が出てきたのである。

 そのほかには、昔はよく食べられていた「サメだれ」の復活。市場で誰も買わなくなった原料の「ホシザメ」を、中村委員長は「とにかく持って帰れ」とまず息子さんから説得し、加工場で製品にして売り出すことで値段が付いてきて、次第にほかの漁業者も水揚げし始めたのである。あの質問は、ここまで説明しないと納得してもらえない市場流通の核心をついたよい質問であった。