住んで分かった生活環境

2013年2月7日

 昔、水産庁の漁港部(当時)が漁村の生活環境整備事業を行っているのを知り、海の役所が何でそこまで手をつけるのかと思った。実際に漁村に住んで認識不足を恥じた。甫母は山と海に挟まれた狭隘な土地に、家屋が密集した典型的な漁村集落。

 私の借家は斜面に階段状に張り付くように建てられた3軒の家のいちばん上。中型の冷蔵庫を運び込もうとしたら、石段が直角に曲がったところでつかえた。最後は何とかなったものの、もし大型冷蔵庫を買っていたらとぞっとした。私の家が3階相当とすれば、10階くらいの所にも家がある。若い人でもたどり着くだけで膝が笑う狭い石段を、高齢の方が1段ずつ荷物を置いては登っていく。広い庭先をもつ農家とは全く造りの異なる漁村集落の苦労である。

 甫母で久々にご対面したのが「ポッチャン便所」。私も子供の頃の経験はあるが、今さら水洗便所の快適さを思い知らされることになった。敷地内に浄化槽を設置するスペースもないため、今もって多くの家が海にやさしいエコ便所。経験のない若い世代、特に女性には相当の抵抗感があるらしい。私も水産庁に陳情する機会があれば、ぜひ共同の浄化槽の整備をお願いしたい。

 外からみると、そんな狭いところに住まないで、車もあるのでどこか近くの広い土地に引っ越してはと思うだろう。沿岸漁業は仕事と生活の場とが密着していて初めて成り立つ。忙しくなれば、船と家との間を何度となく往復する。沖合や遠洋の操業形態とは全く違う。漁業や漁村の形態は全国さまざまで、津波に強い漁港や漁村への復旧が東北でどのように具体化しているか承知していない。しかし、甫母で職住分離をやると、沿岸漁業は衰退すると思う。当地で新たな世代に漁業を引き継ぐためには、今の集落環境をできるところから快適にしていくことが、いちばんではないかと思う。