事実認識の検証を

2018年1月19日

 私が東京水産大学(当時)の学生だった頃の恩師、大海原宏先生(専門は水産経済学)の「日本漁業の『ショック・ドクトリン』考」という水産業規制改革への考察が、「漁業科学とレジームシフト 川崎健の研究史」(東北大出版会、2017年12月)に掲載された。これは規制改革の裏側にある構図を見事に分析した点から画期的なものといってよい。

 そこでは10年前の日本経済調査協議会の提言以降の規制改革推進論者の「喧伝書」とマスコミキャンペーンおよびそのロビー活動について時系列に追って触れ、その主張の事実誤認と虚妄性を指摘している。

 また「欧米の事例を環境条件に関係なく善であると見なし、日本にも強要しようとする知恵なき者」を意味する「ではのかみ」とも称している。

 以前にもうそを平気で言う彼らへの批判はあったものの、このような学術的出版物において、包括的に具体的証拠を基に、実名を挙げその主張の実証性の乏しさを指摘しているのは初めてと思う。

 この論考では、元水産庁長官の佐竹五六氏の著書を引用し「学問の世界と同様に、政策論においても、前提となる事実認識とその評価視点、現状を規定する様々な要因の分析、政策手段などによるその操作可能性、それに伴う社会的リフレクションとその評価、政策選択の制約条件などが明らかにされる」ことの重要性を指摘している。まさに、これこそが規制改革推進会議の議論において完全に無視されているものである。

 この論考を読み、なぜか私は「慰安婦問題」の構図を連想した。吉田証言のうそから始まり、朝日新聞が煽(あお)り、河野談話へとつながった、あのうそとマスコミと政治の連携である。後日吉田証言はうそと本人が認めたが、もう事実などどうでもよい取り返しのつかない結果を招いてしまった。事実認識の検証など全く行わない規制改革推進会議の議論も、日本漁業に何をもたらすのか想像に難くない。