ヨン様先生の岩波新書

2016年11月10日

 その容貌から「ヨン様先生」と東京海洋大学准教授時代に学生から慕われた濱田武士先生(現在は北海道学園大学教授)が、岩波新書から「魚と日本人 食と職の経済学」を出版された。

 岩波新書とは「日本における新書出版形態の創始で、広く時代が必要としている啓蒙(もう)をコンパクトなサイズと適任の実力執筆者が提供」(ウィキペディアより)という最も権威ある新書である。濱田先生には三重県に講演で来られた時に、答志島の私が住む家までご覧いただいたこともあり、今回の出版には特段の思いを感じた。

 濱田先生はこれまでも「漁業と震災」(みすず書房)など素晴らしい本を出版されているが、私が特に感謝しているのは、新自由主義的な漁業改革の流れに対して、水産政策審議会の特別委員の立場などから、その問題点を厳しく指摘されてきたこと。そのためか、水産庁の検討会で前代未聞の事件が起こった。新自由主義的改革賛成の新聞社の方がブチ切れて、会議終了後に濱田先生に近づき怒鳴りまくったのである。これこそ濱田先生が「闘う学者」であることを立証した「逆武勇伝」といえよう。

 新刊の中身はどちらかというと「闘士」としての側面が抑制され、「学者」として幅広い視点から客観的な事実を基に水産業の問題点を指摘している。もちろん漁業制度改革の動きに対し、第5章では「中立的な立場から報道すべき機関が、その立場の者に代わって『海を使う』という権利の意味を理解しないまま漁業制度をたたくことはあってはならない」ときっちり言及している。

 大手報道機関が新自由主義の手先化している現状において、国民に正しく水産業を理解していただくことの意義は大きいものがある。鹿児島大学・佐野雅昭教授の「日本人が知らない漁業の大問題」(新潮新書)も随分売れていると聞く。これらの本が、数は多いが中身が全然進歩しない「日本ダメ、外国ハラショー」本を一日も早く図書館の書棚から地下書庫に追いやることを望みたいものである。