ビクビクの朝市初体験

2014年4月16日

 鳥羽市安楽島地区の漁業者の奥さんたちが結成した、何とも勇ましい名の「あらしま新鮮組」が主体となり、朝市が月2回漁協支所前で開かれている。海産物3店、農産物3店、ベーグル屋さん1店のこぢんまりとした朝市で、浜口富太さんの奥さんもカキやノリなど自前のモノを軽トラックに積んで売っており、私もそれを手伝うことになった。

 自慢ではないが、役人は人に頭を下げなくても生きてこられ、もちろん鉛筆1本も売ったこともない。その私が、赤の他人に頭を下げてモノを売るなどできるのか、正直、不安を通り越して「怖い」であった。
 初めての朝市で、私はビクビクしながら、できるだけお客さんと目を合わせないよう伏し目がちに、袋詰めなど裏方の手伝いをしたが、漁師の皆さんは、楽しそうにお客さんと会話をしながら魚を売っている。

 海を職場とする漁師は、接客など不得意と思っていたが、これは意外であった。「初めは怖くなかったですか」と聞くと、「別にそれほどでも」。そんな中、浜口さんのおばあさんは「わたしゃー、知らない人に頭を下げるなど絶対イヤ」と、朝市には来ない。やはり想像した通り、古い漁師気質の人もいるようで少し安心。
 たまたま私1人で店番をしていた時のことである。運悪く、1組のご夫婦が近寄ってきて、じーっとカキを見ている。「いらっしゃい」の声も出ず、気まずい沈黙の時間に耐えられなくなった私は、思わず殻付きカキを1つ手に取り、聞かれもしないのにカキむきのコツを説明し始めた。

 ところが興味を引いたのか、いつの間にやら5?6人のお客さんが集まり、私の講釈を真剣に聞き始めた。そこに奥さんが戻って、「すごいねー、さとうさん、何を話していたの」と聞かれ、「いやーちょっと」。「でも全然売れなかったのね」と言われ、ガックリ。

 これからの漁業は、売ってなんぼの時代へ、6次産業化など消費者との距離を縮めていく必要があるが、それにはまず行動し慣れることが1歩かと感じた朝市であった。