クロマグロ底引き網漁業

2019年3月14日

 先般三陸の沿岸漁業者の方から底びき網にマグロが入ると聞いて驚いた。もちろん普通ではそんなことはなく、そのマグロは定置網に入ったものを国の資源管理施策に従い放流し、その後死んで海底にあったものらしい。一部の定置網ではすでに1億円を超えるマグロを放流したという。

 そもそも親子関係がみられず、環境による資源変動の大きいマグロを、漁獲数量管理で一定の目標値に回復させようということがどうしてできるのか理解できないが、小型魚保護の方は理解できる。ただし、その保護した小型魚が生き残ればの話である。私は定置網に入網したマグロは、放流時は生きていても、その後ほとんど死んでいると思う。というのは、一昨年私が関わっているマグロ養殖場のイケス網が大シケでもまれ、多くの斃(へい)死魚が出たが、それが4か月間にもわたりだらだらと続いたから。稚魚の時からイケスで飼われてきたマグロでさえ一時的な擦れの影響がそれほど長く続くのに、まして天然魚が狭い定置網でもまれて生き残れるのかである。

 これでは資源管理効果などなく、クロマグロという高級食材を無駄にして海を汚し、資源管理をしているふりをしているだけではないか。現場の漁業者の心中はいかばかりかと察する。もう、ここまでくると5代将軍徳川綱吉の「生類憐みの令」に近い。その基本的考え方は「資源保護」と同様に否定できないが、それと権力が結び付き現実離れの理想主義に走ったことが「人間より犬(マグロ)が大事か!」と庶民(漁民)を苦しめた希代の悪法となったゆえんである。結局この悪法は将軍綱吉が亡くなるまで続き、100年間は残せという遺言にもかかわらず、たった7日で廃止されたという。

 しかしこの資源管理は政権が代わればすぐ廃止というわけにはいかない。選択漁獲が困難な定置網に無謀にも数量管理を課し、それを国際約束したことに対する代償は極めて大きい。