そんな場面に出会えるとは

2015年11月30日

 日本の資源状態が悪いと強調したくて仕方がない方々が、必ず引用するのが、平成22年度水産白書にあるアンケート結果「漁業者の87・9%は『資源は減少している』と感じている」である。私に言わせれば、こんなアンケートは意味がない。なぜなら、漁業者は、その資源が最も多く獲れた時の記憶・体感を基準に今の資源状況を判断するから、いつ聞いても結果は「減少している」が圧倒的に多いからである。

 むしろ、私の関心は「資源が増加している」と回答した0・6%の漁業者の方。よほど運がよかったのだろう、ぜひそういう場面に出会ってみたいと思ったが、いきなりそれが答志で実現した。今年の伊勢湾のサワラ漁は、キャリア50年の漁師の方をして「こんなことは初めてだ」と言わしめた。昔は一晩で100尾獲れれば大漁だったが、今年は少ない人で100尾、多い人は300尾以上も。しかも漁期が例年より1か月以上も長く、今も続いている。

 温暖化が要因ではないかという人が多いが、水温だけでは魚は増えない。カタクチやマイワシなどの餌になる魚も多かったはずと思うが、バッチ網の漁模様はよくなかった。しかし、資源が多い時にみられる小型化の現象もなく、魚体も丸々として脂が乗っている。

 分からないことばかりであるが、伊勢湾の生産力にはただ恐れ入る。このような現場を経験すると、親の数で子の数が決まるMSY理論より、親の数と環境で子の数が決まるという、環境要因を重視する東京海洋大学の桜本和美教授の新理論の方が現実に近いと思わざるを得ない。

 私は最近、豊漁が続いたあとに漁業者にある共通した感覚が生じてくることに気が付いた。昨年の安楽島地区での20年ぶりのイセエビの豊漁の時もそうだったが、今年の答志のサワラでも、漁業者から同じ言葉「来年が心配だ」を聞いたからである。資源の成長と衰退の繰り返しを経験してきた漁業者のこの本能こそが、成長、成長、また成長という陸上産業にはない、生きる知恵ではないだろうか。