いま1度、地域営漁計画を

2013年9月18日

 水産庁にいた経験で、現場の漁労作業に役立つことは1つもない。しかし、素人ゆえの“岡目八目”というか、意外に改善点はみえてくる。例えば、「つぼ網」式定置網は、日々の揚網などは短時間の軽作業だが、毎週の網替え作業は相当な重労働である。このため、夫婦では1か統が精いっぱいであるが、手助けが入ると全く楽になる。3人で網を上げるとスイスイと揚がってくるが、1人減るだけで不思議なことに2倍以上の負荷となり、ヘトヘトになる。エビ網漁も同じで、日々の網修理を誰かに頼めれば、確実に投網数を増やすことができる。1家族では1か統だが、2家族では4か統も可能という理屈である。このように、一連の漁労作業上のネックとなる部分が効率化の壁となっており、家族単位での沿岸漁業の限界ともいえる。

 そこで、日々の漁労作業および経営は個々の漁業者責任としても、一部分を地域共同で行うような調整をしたり、必要とあらば外部からの支援要員を派遣できる組織が漁協またはそれを超える単位であれば、1人当たりの生産量の増加に大きな貢献をするのではないかと思う。この発想は「地域営漁計画」の考え方でもある。

 以前から私は、共同体管理の精神を生かした地域営漁計画は、漁業者が減少する中で生産性の高い漁業を再構築するために、最もふさわしい手法と思ってきた。しかし、昭和60年から平成2年にかけ、全国で作成された489計画のうち、実行されたのはわずか数例であった。誰もがそうやるとよいと頭では分かっていても、それを実行できなかったのはなぜか。実は私が漁業現場に来た最大の関心事項はそのことである。

 現実をみると、親戚や知り合いの手助けで実質上そうしている漁業者もいる。しかし、高齢化が進み、それにも限界が生じ始めている。やはり気心の知れた人間との共同作業はできても、理屈だけでは赤の他人とのチームプレーがうまくいかないのであろうか。とすれば、まず新たな人間関係の構築が1歩目の課題となるかも知れない。