売れる水産加工品を挙げていくと、一過性のブームを除き、数十年も続く定番商品ばかりが思い浮かぶ。「基本の味がいちばんおいしい」と言えば聞こえはよい。
だが手を変え品を変え、各社の努力がありながら、ヒット商品が誕生していないのは事実だ。考えるほどに八方ふさがり。「アイデアは出尽くした」と頭を抱える今こそ、水産高等学校生の発想に注目したい。
ツナ缶(マグロの油漬け缶詰)は、静岡県水産試験場の技師が焼津水産高等学校と共同で生産したのが始まり。豊漁だが脂乗りが悪いビンナガをいかに流通させるか、苦心の末に誕生した。「魚=コメのおかず」の概念を一掃し、パン食文化の海外地域でも受けがよい。
また、福井県の小浜水産高等学校は、大量発生し漁業者を困らせたエチゼンクラゲの食用加工を研究。粉末化に成功し、クッキーや地元銘菓の羽二重餅の原料とした。
こうした話は全国の水産高等学校でも、同様に例をもつ。実習を通じて水産加工の基礎知識・技術の下地をもつ生徒が、地元で安定的に生産されるものや、価値がない・低いものを「何かに使えないか」と、商品化の道を探った経緯が多い。
一般企業ではコストのかかる商品開発が、生きた授業となるのも水産高校の魅力であり、必然的に地域色豊かな商品が生まれる。アイデアは地元企業と提携し商品化されることで、地魚が地域から飛び出す。地方の水産都市に多い水産高校にこそ、できることは多い。
岩手県の宮古水産高等学校といえば、「サケの中骨缶詰」を初めて作った高校だ。地元特産がゆえに目に留まらなかった残渣を、今では複数の企業が商品化している。
数年前は、コンブに似た海藻「スジメ」にも注目した。「雑な」という意味を含む「ゾウカ」と地元で呼ばれる海藻は、年配者が若い芽をわずかに食べる程度で、むしろ邪魔者扱いされていた。
同校食品家政科水産物有効利用研究班(顧問・?山信次教諭)は、課題研究の一環でスジメを研究。アルギン酸、フコイダン、カルシウムが豊富なうえ、高血圧の原因となるナトリウム含有量やカロリーが低い。また、成分の多くを占める食物繊維が、ほかの海藻にない「シャキシャキ」食感を生むことも分かった。
「われわれにはスジメを売り物にする発想すらなかった」とは、地元水産加工組合の言葉。地元加工メーカーや水産組合を巻き込み、多くの商品を生み出しブームを予感させたが、東日本大震災で原料確保から保管、製造の一連が機能しなくなった。残念だが、震災後は製造を休止している。
現在のいち押しは、「いわて宮古の海プリン」。?山教諭によると、市内で作られる海水塩が何と合うかを生徒らと考え、「“スイカに塩”で甘く感じる」ことから、地元企業と商品化を進めた。濃厚な牛乳の風味と甘さを塩で引き立てたプリンは、レアチーズのようなモチモチ感に。これも常識にとらわれない若者の発想だ。「食べる時のプリンの温度で塩の味が目立つなど、塩加減が特に難しかった」という。