Vol.47  魚の個性を大事に?鈴木香里武・フィッシュヒーラー

香里武さんが著したフィッシュヒーリングの入門書

香里武さんが著したフィッシュヒーリングの入門書

 “フィッシュヒーリング”をご存じだろうか。魚たちの織りなす複雑な色、動き、形、模様から影響を受ける心の動きを研究する心理学で、学習院大学の現役院生で日本唯一のフィッシュヒーラー・鈴木香里武さんが提唱する学問だ。水産の業界人は食べる対象としてしか魚を見ないが、魚を観る専門家の知見を魚食に生かせないか。香里武さんに聞いた。

異分野との間に橋わたす

魚たちの魅力を熱っぽく語る香里武さん。服装はフィッシュヒーラーの正装

魚たちの魅力を熱っぽく語る香里武さん。服装はフィッシュヒーラーの正装

 香里武さんは0歳の時から魚採集家の両親に連れられ、魚を採るために全国の岸壁を巡ってきた。きょうに至るおよそ22年間、自らも魚採集家として星の数ほどの魚に接し続けてきた。「魚が好き」。まるで息をするかのように香里武さんは言う。

 ただ、いくら魚への愛や素晴らしさを口にしても「魚に興味のない人には響かない」ことを残念に思っていた。「何とか魚に関心をもってもらう手はないか」。その一心で、魚とさまざまな分野とのコラボ企画をプロデュースする専門家の集団「カリブ会」を立ち上げた。16歳の時だ。

 参加者が100人を超えた18歳の時、自ら代表を務める?カリブ・コラボレーションという会社にした。「カリブ会」会員は現在192人まで膨らんでいる。年齢は上が69歳から下は20歳まで。音楽、映画、スポーツなど各界の著名人が所属。40代から50代が平均と大半が年上だ。

 同社は最初の仕事で、「カリブ会」のつながりを生かし、沼津港深海水族館の音楽をプロデュース。似た印象しかなかった水族館の音楽に新風を吹き込んだ。「6人の作曲家に各ゾーンの魚にふさわしい曲を作曲してもらった」。完成した6曲は予想以上の出来だった。水族館ファンだけでなく、作曲家のファンも曲をきっかけに興味の薄かった魚の虜にした。

自宅にある幅90センチのメーン水槽。「わが家の顔となる水槽」と香里武さん

自宅にある幅90センチのメーン水槽。「わが家の顔となる水槽」と香里武さん

 一方、香里武さんは「カリブ会」に籍を置いている者として自らの専門も求めた。それで同会の立ち上げと同時に心理学を極めようと決めた。新たな学問“フィッシュヒーリング”を提唱した。

 「カラーセラピーと近いが厳密には違う。色、動き、形、模様の組み合わせ次第で、癒やしのようなポジティブな気持ちにも、ネガティブな気持ちにも心を動かせる。無機物にはない、生物の“ゆらぎ”も心を動かすのに欠かせない」と解説する。
 学問の探求の道はまだ半ばだが、香里武さんは今、魚を種類ではなく、1尾1尾の個性まで深く見つめ、心に与える効果を研究・実践している。

魚全体や名前をみせて

“フィッシュヒーリング”的には、魚の名前と個性をもっと前面に押し出した見せ方が必要?

“フィッシュヒーリング”的には、魚の名前と個性をもっと前面に押し出した見せ方が必要?

 そんな香里武さんが昨今の魚食事情をみて残念に思うのが、「肉は牛・豚・鶏があるのに、魚はひとくくりにされすぎている」点だという。販売形態もどんどん加工度が上がり、“フィッシュヒーリング”の対象である魚の原型が消えうせている。「もっと魚全体をみせてほしい」。一方で、魚食系男子を自称する香里武さんは訴える。

 魚採集の活動のかたわら、各地の魚料理も味わってきた経験からも、「魚が生きた状態から、獲って調理し、料理で並ぶまでを全部見て味わうのが最もおいしい」との思いもある。魚の個性を殺しすぎてしまっている売場を嘆かわしく思っている。

 「魚の名前をもっと強調し、魚本来の形を思って味わえるようにしたらどうか。同じ魚種でも1尾1尾の個性がみえる売場を実現できたら、素敵なことだと思う」と、香里武さんは静かにほほ笑む。

▲ページトップへ

魚食応援バナー02
魚をもっと知ろう!ととけん問題にチャレンジ
BACK NUMBER