人材育成を支援する任意団体「i.club(innovation club)」が気仙沼の高校生を対象に行った教育プログラムが興味深い。彼らが地元の水産文化や素材を掘り下げ、分割・再構成して新たに考え出した水産加工品には、「なるほど」と、多くの共感を得られるためだ。地域産品の再発見から始まった新名物づくり。同団体が与えたきっかけに、柔軟な発想と実行力を伴う若者がどう対応したのか。その過程を追った。
i.clubが気仙沼の高校生らに与えたテーマは、「ドライフードの可能性」。室根おろしと呼ばれる西北風に、新鮮な魚が揚がる地理的条件から、気仙沼では節やフカヒレ、干物などドライフード文化が発達、技術を高めた。とはいえ、コールドチェーンが発達した現代では、その価値に変化が生じている。
生鮮の水揚量が日本一のカツオを探った班は、うま味が凝縮し、保存も効く生利節に注目した。かつては50軒以上もの専業社が存在したが、今は3社だけ。その理由について高校生は、自身が食す機会を失った経験から、「パサパサして食べづらく、イケてないから」と、言い切った。
ただし、生利節の長所は取材の過程で認識できている。「欠点さえ克服できれば」と、ラー油ベースの調味液に漬ける商品を考え出した。パサつく感はラー油が抑え、食感を残す大きさにカットしたことで、単体のうま味や風味を失わない。
対象とした魚介類はほかに、ワカメとサメ、サンマ。4種とも気仙沼の主要産品だが、専門に特化するわれわれには、「魚とはこうだから」と無意識に決め込み、扱う部分があったかもしれない。だが高校生らは、「なぜ食べる機会が減ったのか」を素直に疑問ととらえ、「どうしたら喜んでもらえるか」と丁寧に取材し、形にした。
高校生らが最初から完成形を描いていたわけでない。数ある発言から拾い、磨き上げられた結果という。フィールドワークやインタビューで気づいたことを形にし、伝える意識改革の作業の中で、小川悠代表は「何を言ってもよい空気感を、どうつくるか」を心がけていると話す。自分の思ったことを話すことに抵抗を抱かせない。「大輪の花が咲くかもしれない種を、真っ先につぶしてはもったいないから」。
写真に記す4品には、新しい技術も見知らぬ調味料もない。ただ、「確かにそうだな」と、共感できるものばかり。ワカメ商品ならば「外国人はワカメを食べるの?」「料理名を聞いたことがない」「食べてくれたら面白いよね」が発想の起源という。「アイデアは質より量が優先。あとからみんなで質を上げていけばよい」(小川代表)。
同団体は来年度も事業継続を予定しており、「高校生のアイデアをプレゼン大会のような形で発表し、地元産業に受け入れてもらえれば」と、考えている。
なまり節ラー油
食感・風味・香りがそろう生利節を、おかずにも調味料にもなる加工品に。現在発売中。
プロヴァンス風WAKAME
外国人にも食べてもらおうと、ワカメの茎をハーブと合わせ、ピクルスに変身させた
サンマのフルーツオイル漬け
気仙沼大島のユズやリンゴ、椿油で生臭さを抑えつつ、保存が利くサンマ加工品。
三食サメよろずフレーク
臭い肉の印象を変える。中華(赤)、バジル(緑)、甘辛醤油(茶)でおいしく鮮やかに。