日本は古くから魚に親しんできたが、漁村はともかく内陸部の人々にとって、魚は塩干魚が中心で、あっても鮮魚までだった。浜から生きた魚を運び「活〆」する文化が花開いたのは、輸送が発達したバブル期以降と、割と最近だ。歴史が浅いだけに、活魚と「活〆」の文化はまだ伸びしろがある。築地の水産仲卸で「活〆」の話を聞いた。
「『活〆』だけなら簡単。脳と体をつなぐ延髄を断ち、脳死状態にするだけだからね」と話すのは、上物を中心に扱う飯田水産の飯田知誉社長。
「死ぬ直前に暴れると急速に消費されるATP(アデノシン三リン酸)が、「活〆」なら大量に魚体に残る。ATPが十分あるうちは、死後硬直とその後の熟成から腐敗の過程がすぐ起きない。これが鮮度劣化を遅らせる。体感的に『活〆』のタイやヒラメは、通常の2倍はもつよ」という。
「活〆」は産地でもできる。それをあえて、痩せや「あがり」(死ぬこと)が起きる危険を冒してまで、生かして築地に運び、「活〆」する理由の一つは「〆た(死んだ)時間が測れるから」だ。
「活〆」が普及し始めのころは、即食がもてはやされた。だが、ATPが分解する過程で出るうま味成分のイノシン酸が、即食の場合ほぼ皆無。歯応えはいいが、味はお世辞にもよいといえない。
「魚種やサイズごとに違うが、魚をみれば、『活〆』後『24時間くらいが最もうま味成分が多くなりそうだ』などの予測がつく。そうした知識や経験が蓄積されている」。〆た時間が計算できると、「活〆」の魚を買っていくお客さまは、自分の店での使いごろが読める。
したがって「〆方がしっかりしているのが条件だが、浜で〆た時間が正確に読める産地なら、わざわざ活魚を『活〆』せず、鮮魚で流通している魚を買う」こともある。もちろん硬い食感重視の料理もあるし、うま味が増減しない魚もあるから「活〆」した魚の使いどきは場面によりけりだ。
「『活〆』が当たり前になり、お客さまのニーズに対応できる幅が広がった。今後、輸送の発達とともに活魚や〆方の種類はさらに増えるだろうし、水産資源が減る中、ひと手間かける『活〆』の重要性は増していく」(飯田社長)。「活〆」をもっと知り、今だからこそ入手できるようになった「活〆」の魚をもっと効果的に活用したい。
「活〆」のテクニックで重要な、血抜きと神経抜きを10秒以内に行うのが、今、多くのメディアで話題となっている秒殺活〆神経抜き「瞬〆」だ。スズキの水揚げ日本一の千葉・船橋港の漁師らが自ら包丁を振るい、「おいしく付加価値の高いスズキを提供したい」一心で取り組んでいる。
5月から10月までの旬のスズキやフッコ(スズキの幼魚)のうち、色ツヤよく傷のない、良サイズの魚を厳選。頭を落とし、尾に切れ目を入れて血抜きしたのち、圧縮空気を送るエア抜き機を使って神経抜きする。これをまさに一瞬で行うことにより、スズキがストレスを感じる暇さえ与えず処置し、鮮度とうま味成分をより長時間保たせる。
出荷時の荷姿も、市場でひときわ目につく特別仕様。氷〆した通常のスズキと比べて2?3割高で取引されている。口コミが口コミを呼び、神戸や福岡などの飲食店からの引き合いもあるという。
巻網船の船主で共同経営する海光物産(株)の大野和彦社長は、「消費者においしく食べてもらうのと同時に、資源保護の観点から大漁ではなくても漁業を続けられる工夫をしていきたい」と話す。「瞬〆」は、そんな漁師の強い思いが詰まった注目の「活〆」法の一つだ。