Vol.93  豊洲市場の魚食発信

過去に築地で取引された最大重量のマグロの模型。7街区水産卸売場棟見学者通路で

過去に築地で取引された最大重量のマグロの模型。7街区水産卸売場棟見学者通路で

 世界最大の魚市場だった築地市場の後継となる東京・豊洲市場が11日に開場した。魚食文化の伝道師である街の魚屋が数を減らした代わりに、卸売市場がその役割を期待されるようになって久しいが、新市場はどんな機能と可能性を備えているのか。魚食文化の発信拠点という視点から豊洲市場に改めて注目した。

駅から直結の見学者通路

来年1月に見学者デッキが開放されると写真のような目線でマグロセリ見学が可能に

来年1月に見学者デッキが開放されると写真のような目線でマグロセリ見学が可能に

 ゆりかもめの市場前駅直結の見学者通路の供用が開場2日後の13日に始まった。開市日の午前5時から午後5時まで。水産卸売場棟を早朝に訪ねれば、市場の“華”のマグロのセリが見られる。

 先着120人限定だった築地市場と違い、誰もが常に見られる点は魅力だし、水産卸売場棟1階マグロ卸売場の見学者デッキが来年1月15日から開放されれば、より間近からセリを見られる。

 そのほか通路上には、卸売市場制度と豊洲市場を知る見学ギャラリー、特大マグロ(一尾496キロ)の模型、実物のターレットトラック(ターレー)、魚河岸の歴史を紹介する写真パネル、写実的イラストで描かれた旬魚の紹介、一口料理メモなどが展開されている。

 展示物には二次元コードが付され、スマホなどで読み取ると15言語の表示が可能な多言語情報表示サービス「Toyosu Market Guide」に接続される。場内の飲食・物販店舗の地図だけでなく、市場の仕組みや基礎知識、魚のうんちくがあり、国籍関係なく情報が取得できる。
 飲食・物販店舗に比べて、見学者通路にはさらなる改良の余地があるだけに今後の進化に期待したい。

ちょっとした調査に

ガラス戸となった銀鱗文庫入り口(左)と新設の日本橋魚河岸コーナー(右)

ガラス戸となった銀鱗文庫入り口(左)と新設の日本橋魚河岸コーナー(右)

 「市場の図書館」として知られていた「銀鱗文庫」(NPO法人築地魚市場銀鱗会)は、7街区管理施設棟3階に27日に移転・開館した。「ちょっとした調べものは当文庫へ足を運んで」と福地享子事務局長は話す。

 豊洲では木戸からガラス戸へと変更。中に入りやすくした。館内には、日本橋魚河岸時代から受け継いできた大福帳やそろばんなどの展示コーナーを新設。築地魚河岸の関連書籍もずらっと並ぶ。趣ある意匠が施された調度品が揃い、ひと息つける安らぎ空間となっている。

事前予約で相談受付

 水産物市場改善協会が運営する「おさかな普及センター資料館」も、7街区管理施設棟2階に移った。坂本一男氏が引き続き館長を務める。事前予約(03―6633―0950、受付時間は月?土曜・午前10時?午後4時)があれば、坂本館長の卓越した知見と所蔵の書籍をもとに、魚に関する相談に応じる。

 親子向けの食育活動は築地と同じ内容を継続する。夏・冬の親子料理教室の会場は、2019年度から豊洲市場に新設の調理室(現在は供用開始前)などに舞台を移す計画。

 また、水産物市場改善協会の中にある日本おさかなマイスター協会主催の第22期おさかなマイスターコースが、19年から豊洲で開講する。

整備進む場外と千客

食育などで使われる7街区管理施設棟1階調理室。調理台は10台

食育などで使われる7街区管理施設棟1階調理室。調理台は10台

 豊洲地区一帯の賑わいを創出する千客万来施設建設予定地の動向と、豊洲市場に隣り合った4街区にも触れておきたい。

 千客万来施設建設予定地では、万葉倶楽部(株)による170店舗からなる商業施設の開業が23年に先延ばしされたが、19年1月から都が主導する市場の食材販売やイベント利用などで使用が始まる予定。東京五輪・パラリンピック年の20年1月以降は、仮設施設の場外マルシェが開業。市場の旬の食材を販売する店舗、江東区の名物料理のフードコートなどを収容することとしている。

 4街区では、大和ハウス工業(株)と清水建設(株)による大型プロジェクトが進行する。前者の地上17階建て複合施設「(仮称)Dタワー豊洲」(19年8月開業予定)、後者の地上11階建てオフィス棟・地上14階建てホテル棟(20年度竣工予定)には、大規模宿泊施設・商業施設が入居予定。豊洲市場と既存施設との化学反応に期待がもてそうだ。

期待大きい伸びしろ

 いずれにせよ豊洲市場の中も外も、大きな伸びしろを残している。築地のエッセンスを引き継ぎつつ、魚への興味を刺激し、魚好きを増やせる一大拠点になれるかどうかは今後にかかっている。

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