Vol.21  解凍で変わる!冷凍素材を生かす

 冷凍技術の発達により、水産物は鮮度とうま味、栄養価を逃さずに、流通の幅を大きく広げた。それだけに、生産者や加工メーカーからは、「冷凍状態のまま、小売販売できないか。解凍して販売すると賞味期限が短くなり、商品ロスが出やすい」の意見が挙がる。他方、家庭での解凍は、うま味を損ないやすい。冷凍販売の可能性を求め、家庭でも再現しやすい2つの解凍法を紹介する。

[50度C洗い] 雑味なくしうまみ引き出す

冷凍の干物を50度Cのお湯の中で洗いながら解凍

 「解凍のポイントは、ドリップを出しやすい0度C前後を、いかに素早く通過させるか」と語るのは、低温スチーミング調理技術研究会の平山一政代表。10年ほど前から、冷凍食材の解凍として、食材のうま味を引き出し、余分な雑味を除去する「50度C洗い」を提唱している。

 マグロのサクであれば、塩分3%の50度Cのお湯に3?5分ほど漬け、氷水で締めたあと、水気を拭くのがお勧めだという。「表面温度との差異に、中心温度が引っ張られ、0度C温度帯にとどまる時間は短い。本来の香りとうま味を残した解凍ができる」と利点を話す。

 その際、さし湯をしながら50度Cを保つことが重要とも。50度Cが加熱調理にならず、食材の細胞を壊さない温度帯であり、「表面の汚れや雑味、臭みの原因となる揮発性の酸化物も取り除ける」。温度が高すぎれば、身に火が通ってしまい、低すぎれば効果は薄まるそうだ。

常温や冷蔵庫で解凍して焼くよりも、ふっくらジューシーな焼き上がり。雑味が少なく上品な印象

 ドリップを出さないだけでなく、余計な脂肪や臭みを除くことができるため、凍結時に近い状態へよみがえる。適用範囲は広く、調理済み冷凍食品や加工品以外であれば、干物やエビなどの甲殻類、貝類など、種類は問わない。青果や畜肉類でも使われている。

 「50度C洗い」は現在、口コミなどで広がりをみせる。平山代表は「家庭だけでなく、飲食店や量販店のバックヤードなどで利用すれば、食材は一段上質に感じられ、解凍後の鮮度保持期間も変わってくる」と、提案する。

[氷水解凍] マグロ生産者も太鼓判

外食からも注目を集める氷水解凍

 冷凍マグロのプロ中のプロである生産者が、“目からウロコ”の解凍法として惚(ほ)れ込んだのが「氷水解凍」だ。

 解凍法は至って単純。ビニール袋に凍ったマグロを入れて、氷水に漬けて解凍するだけ。流水で解凍する方法に比べると2倍の時間(1時間半程度)はかかるが、面倒な手間はいらず、マグロのねっとりした食感と鮮やかな色をよみがえらす。

 最近では、大手ビールメーカーの酒類を扱う外食店向けの会報でも、マグロの簡単解凍法として紹介された。

 氷水解凍を推奨する若手マグロ経営者の勝倉宏明氏(全国鰹鮪近代化促進協議会会長)は、「冷凍マグロは、解凍方法を間違うと、せっかくのマグロも台無しになってしまうが、これだったらマグロの本来のおいしさを簡単に再現できる。マグロの扱いが得意でないイタリア料理やフランス料理店などでも扱ってもらいやすくなるはず。マグロをいろいろな食のシーンで使ってもらうために、氷水解凍はもっと普及したい」と、マグロ生産者としても氷水解凍に太鼓判を押している。

 この方法が有効なのはマグロだけではない。アジやサンマなど小魚にも応用できる。この解凍法を紹介する東京海洋大学の鈴木徹教授は、「アジを袋に詰めて水を入れ凍らすと、解凍した時に内臓も鮮度のよい状態を保てる」と言う。

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