魚食には欠かせない主食のコメ。しかし日本型食生活は戦後、大きく様変わりし、コメを主食に魚や野菜を食べる“高糖質食”から、肉や油を多く摂取する“高脂質食”へと急速な勢いで変化した。また、食の欧米化などでパン食が増加し、コメの出番は減ってきたといわれている。でもそんな米食の将来が決して暗いというわけではない。炊飯というこだわりのスキルを使いながら、飲食店に自ら炊きに入るなど米食推進に力を入れる“五ツ星お米マイスター”舩久保正明氏に、魚食推進のヒントにもなるような熱い話を聞いた。
全国優良米穀店コンクールで農林水産大臣賞に輝いた舩久保さんの店「お米のふなくぼ」は東京都江東区白河にある。1階の店内には1キロ売りからできるコメのボックスが所狭しと並べられ、各生産者から買い付けているコメの詳細な情報がプレートに丁寧に書かれている。生産者の実に8割が契約農家となっているという驚異的な数字は、舩久保さんのコメへのこだわりとその先にいる生産者との信頼関係の表れだ。生産地には自ら赴き、栽培方法や稲の状態、肥料などすべて自分の目で確かめる。店で1?売りをしているのは「好みに合ったコメを探すのに量が多かったら食べ切るまでに時間がかかって嫌でしょ」。自分が消費者だったらと、1キロ売りを15年前からやっているそうだ。
舩久保さんはもともと米穀店の人ではない。大学を出てフレンチの料理人をやっていたが、米穀店をやっていた父が倒れたことがきっかけで、家業を継ぐことになる。ただし、事情があって父の取引先を引き継ぐことはなく、ゼロからの出発だった。「“新潟=ブランド”のようなものが存在していて、おいしくないものまでもがブランドというのはおかしいと思った」というのが自分の目で確かめるきっかけだったという。
今は飲食店との取引を中心に、ネット販売や消費者への販売を行っているが、実際に扱っているコメを使って炊いた時の感覚を理解しておく意味でも、自身でおむすび店を開業。東京駅構内にも「おむすび結庵」を出している。「自分が取引をしている飲食店に炊きに入り、実際にそのお店が求めるご飯がきちんと提供できているのか、開店前の店ならどういうご飯が提供できるのか、何度も炊いてみてすり合わせをしてご提案するようにしている。これが取引先との“信頼”関係になるのだと思う」という。
いちばんのこだわりは“炊飯”だそうだ。
「コメがご飯になって消費者の口に入り、初めて商品価値となる。だから炊飯にはこだわるし、おいしく炊いていただくポイントをきちんと伝えていくのも仕事。今の忙しい時代に合わせた簡便な炊飯の仕方もしかり。魚も同じだと思うが、魚自体がよくても、どういう加工や調理がされているかが重要になってくる」と、魚食のポイントを示唆。自分は職人かたぎというだけあって、コメの見方は職人目線だが、「信頼関係のもと、それぞれの食材のネットワークができれば、取引先に対してもよりよいものを幅広く提供できることにもなるし、自分たちの特徴を生かせることにもなるかもしれない」と、今後さらに活躍の場が広がることも期待される。舩久保さんの口から幾度となく出てきた“信頼関係”は、生産者、流通業者、消費者を結ぶ魚食全体のヒントかもしれない。