Vol.26  脱・観光市場のススメ

近き者悦び、遠き者来たる

観光だけでなく普段使いにも優れている道の駅「萩しーまーと」

観光だけでなく普段使いにも優れている道の駅「萩しーまーと」

 観光による地域振興や雇用拡大、新規販売ルートの開拓を期待され、全国の水産都市に建設された観光市場。だが、当初の目的を達成し、成功したといえる施設はいくつあるか。地域活性化の伝道師として全国を駆け回る道の駅「萩しーまーと」の中澤さかな駅長は、「観光市場は大転換期を迎えている」と語る一方、「水産物で人は集められる」と明言する。同道の駅を“魚で繁盛”に導いた秘訣を探った。

「漁街の住民が買う魚屋に行きたい」

地域活性化のアドバイザーとしての顔ももつ中澤さかな駅長

地域活性化のアドバイザーとしての顔ももつ中澤さかな駅長

 旅行者の約8割が個人設定へ変わったという現在、中澤氏は「大型バスが観光客を連れてくる時代は終わった。旅行者の港街での関心は、『地元の人がどんな店に行くのか』に移行している」と分析する。もとより観光客は、シーズンオフや平日、気候により来場者数が読めない。ならば商品のロス率を下げるため日常のアイテム数は落ち、単価も上げざるを得ない。負のスパイラルが発生してしまう。

 次にいつ来るか分からない観光客目当ての経営は、限界にきている。道の駅「萩しーまーと」の開業に際し、中澤氏はコアターゲットを地元住民に設定した。「客数のレベルを維持するには、常に街にいる人を取り込むべきだ」との思いと、先述の「地元の人が行かない店を観光客は望まない」との自負があったためだ。

出展者ごとに役割を

人気はお1人さま刺身パック

人気はお1人さま刺身パック

 地元民が通う店づくりを目指すと、ライバルは量販店になる。だが、萩市は水産の宝庫であり、食は求心力が高い。地元漁協と組むことで鮮度がよく、輸送や保管の中間マージンが少ない「地産地消」の優位性が見出された。定番品目以外の魚も扱え、量販店よりも品揃えを豊富に、楽しい売場づくりができる。

 普段見かけない魚が並んでも、対面販売で説明すれば売れるそうだ。プロが仕入れに満足でき、一般客にもやさしい。
 道の駅内は、活魚を扱う漁協、高級魚の卸、小パック・海鮮惣菜は小売店、普段使いの鮮魚店?と、事前に得意分野の色をつけた。同じカテゴリーと魚種で複数店舗が競合すれば、施設内で客の奪い合いが生じ、価格競争が生じかねない。

鮮度抜群だけでは×

 意外にも売れ行きがよいのは、地魚を中心とした単一魚種の1人前刺身パックだ。ダウンサイジングし、自分の食べたい魚種だけを少しずつ選べて、設定価格は1パック200?300円台という買いやすさを狙った。

 観光客は惣菜売場で購入したご飯物とともにランチで、地元住民は日常の食にと、強い支持を得ている。中澤氏は「鮮度バツグンをうたい文句にしながら、ただ並べる時代は終わった」と説く。

 観光市場の常識や概念から方向転換したことで、「萩しーまーと」は現在も売り上げを伸ばし、10億円へ迫る順調ぶりだ。来館者の構成は、5割の萩市民を含む山口県民が8割を占める。県外客は2割のみ。「観光客はプラスオンの発想」と言うが、地元の人が勧める店として同道の駅は、新たな観光拠点へ成長した。萩市のような水産都市は全国に散在する。一方で、魚には人を集める魅力が確かにある。

地域に眠る魚が宝に

鮮やかな赤色が特徴のヒメジ。萩では「金太郎」の呼び名

鮮やかな赤色が特徴のヒメジ。萩では「金太郎」の呼び名

 日本は地域の特性が薄れてきたといわれながら、中澤氏は「現地でないと味わえない、四季を通じて変化のあるもの」として、水産物の強みを語る。氏には地元底引漁で獲れる小型魚「ヒメジ」の実力を見出したほか、数々の日の当たらぬ魚を出世させた経緯をもつ。それだけに、「知名度が低い、もしくは地元で雑魚と思い込んでいる魚がキラーコンテンツ(圧倒的に魅力ある商品やサービス)になり得る」と提唱する。

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