Vol.7  米国の魚食事情/米国内消費は伸びる傾向

 米国では、寿司ブームが定着し、健康意識への高まりなどから、食生活においても肉から魚へのシフトがみられているという。今回は、米国に延縄・生鮮メバチマグロとキハダマグロを輸入するGallant社のニック・サカガミ代表取締役社長に米国における魚食事情を聞いた。

ニューヨークで近大マグロを現地シェフに紹介するサカガミ社長

◇米国人にとって、「魚を食べる」「魚料理をする」ということは一般的ですか。

◆サカガミ社長/高収入・高学歴の地域であればあるほど、冷凍物よりも高価格の生鮮水産物消費は高いようだ。また、ユダヤ系の人たちの生鮮水産物の消費も多く、彼ら独自の食品判断基準に従って水産物を選んでいる。都市部では、アジア系の多い地域で、やはり生鮮水産物の消費は多い。

 ところが、冷凍物や冷凍加工品となると、全く違った展開となる。低所得層でもフライにした魚の消費はかなり多く、「フライドチキンと並んで肥満の原因になっている」という内容のデータを読んだこともある。

家庭内で魚の料理を作るとなると、さらにこの傾向が増幅される。米国は共働きが多いので、家庭で鮮魚の料理をするのは、中の上くらいの所得層。専業主婦・夫がいる場合に限られてくる傾向にある。低所得層では揚げた冷凍品を電子レンジで温めて食べることがほとんどになるだろう。

◇家庭でよく食べられる魚は。

◆サカガミ社長/いちばん人気は養殖ザケではないだろうか。この切身やタラ系、ホタテ、エビ、カジキ、マグロ、ナマズ、ティラピアなど。

マグロ解体のデモンストレーション

◇生鮮と冷凍水産物に対する意識の違いは。

◆サカガミ社長/残念ながら、いまだに米国市場は「生鮮がよくて冷凍物は悪い」という固定観念が多岐にわたる食品に浸透している。

 実際、米国の寿司店で使われるマグロの8割以上は生鮮マグロだと思う。背景として、一年を通じて米国近辺のどこかでマグロが揚がっていることと、冷凍マグロをよい状態で消費者の口まで届けられる冷凍流通が整備されていないことが挙げられる。一部の水産卸などで急速冷凍庫が導入されているが、日本とは違い、そこに商品が届くまでの流通段階で商品の温度がマイナス10度Cくらいに上昇してしまうため、苦労しているようだ。

◇米国市場や米国人の水産物や魚食に対する変化や傾向は。

◆サカガミ社長/米国政府自体が、事あるごとに「健康のためにシーフードを食べましょう!」と音頭を取っているので、今後、水産物の米国内での消費は間違いなく伸びていくと予想される。

 また、米国の両海岸沿いの大都市部で過去20年に起きた寿司や高級日本酒の一般化といったことが、これからジワジワと米国の内陸部で再現されていくだろう。その過程で、私たち日本の水産関係者が正しい魚食文化を伝えていくことが重要になってくる。

◇米国で水産物を商う時に、日本の魚食文化をどう考えますか。

◆サカガミ社長/仕事柄、世界各国に出張してきたが、どこに行っても「日本の魚食文化は世界一」と、評価が高い。私たちの魚食文化ほど、味覚的・美的・資源保護の面からも完成されている魚食文化は、世界中で類をみない。最近のはやり言葉で言えば、自然と共生してきた中で育まれた「持続可能なライフスタイル」である。

 もっと私たち水産関係者自身がそのことを再認識し、そして誇りをもって世界の人たちに教えてあげるべき「知的財産」であると思う。そうすることが世界の人々の健康状態の向上にもつながることも忘れてはいけないだろう。

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