Vol.61  気仙沼の魚を学校給食に普及させる会

生徒のタブレットへの順応は、大人が思う以上に早い

生徒のタブレットへの順応は、大人が思う以上に早い

 海浜地域の小学校では総合的な学習の時間を使い、地域産業に理解を深めようと、地元漁業者や水産加工業者らを招き、あるいは職場を往訪する事例が増えてきた。水産業への理解や魚食普及に好材料だが、いざ教壇に立ち、生徒の気を引くのは至難の業だ。「気仙沼の魚を学校給食に普及させる会」は、専用の学習ソフトを開発し、タブレット端末を教科書代わりとすることで、水産への学習意欲を高めている。

知りたいを引き出せ、専用ソフトで“深掘り学習”

専用ソフト画面の一例

専用ソフト画面の一例

 学習ソフトのコンテンツは、一問一答形式でつづるのではなく、情報を小出しに、ただし連続性をもたせるため、リンク機能を縦横無尽に張り巡らせた。ちょっとしたゲーム感覚で始めても、多くの絵や写真とともに付加情報が提示され、自然に知識を増やせる。「知りたい」と思った内容を特化し、自分のペースで知識を深掘りできる点で、紙やパワーポイントの教材と大きく異なる。

 例えば「食にたずさわる人」を知ろうとした時、最初の画面で漁業に始まり、幾多の産業を経て提供される過程が分かる。漁業に興味をもったら、「気仙沼の漁師さん」をタッチすれば、当地の主要漁業種が表示され、さらに沿岸・沖合・遠洋漁業と、各項目の詳細も示せるほか、動画サイトとも連携をもたせた。

 気仙沼発信だけに、マグロに関する情報は多い。ソフト内だけでなく、専門の外部ホームページともリンク機能をもたせており、関心度に応じてより高度に、多くの情報が閲覧できる流れとした。

 実際の授業で、「なぜ気仙沼は水産業が重要なのか」と問えば、生徒たちはタブレット端末をタッチしてすぐ答えを見つける。タブレットは直感的に操作しやすいため、「5分もあれば自在に操作する」そうだ。

 同会担当者は、タブレットを使うメリットとして、「“調べ学習”もできること」と挙げる。数々の専門サイトとのリンクに、インターネット検索も併用することで、「興味がある情報を自分たちでどんどん調べて、水産業に関する知識を深掘りしてほしい」と話す。

プロ登場で授業に厚み

漁師さんのリアリティーある経験談はコンテンツで表しきれない強みだ

漁師さんのリアリティーある経験談はコンテンツで表しきれない強みだ

 コンテンツはWEBでも公開されている(kesennumanosakana.jp)。パソコン教室が使えれば地域を問わず、授業ができる体制を整えている。

 ただ、授業の厚みに、本職の“人”は欠かせない。気仙沼市唐桑小学校で、小学5年生23人を対象に行ったある日の授業には、メカジキの突きん棒漁と大目流し網漁を行う、第18一丸の佐々木夫一漁労長がゲストティーチャーに登壇した。

 佐々木漁労長は「海や魚との駆け引きがワクワクドキドキする」「獲れない時は焦らず、根気が大切」と、漁の魅力や大変さを温かい口調で語る。「海を好きになり、一人でも漁師になってほしい。漁師になりたい人は?」と問うと、3人の生徒が手を挙げた。東北の子供たちは控えめというが、この日は漁労長の思いが確かに届いた。

 同会は各界のプロの話を聞いたあと、タブレット端末を用いた授業へと進めることで、学習意欲を効果的に高めている。

地方から日本を元気に

 「気仙沼の魚を学校給食に普及させる会」の臼井壯太朗会長(臼福本店社長)は、東日本大震災を経験し、エネルギー・食・人のつながりの大切さを痛感したという。活動には子供たちへ、「世界に誇る素晴らしい産業が地元にある」「食に携わる仕事を知り、食に感謝する気持ちを育み、水産業の応援団になってほしい」との思いを込めた。

 取り組みは復興庁の「新しい東北」先導モデル事業に選ばれており、ソフトを共同開発した富士通など、幅広い分野から協力を得ている。「今後も産官学の連携を推進し、国産食材に対する意識向上につなげたい。地方の活性化は、日本全体の活性化につながるはずだ」(臼井会長)。

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