Vol.85  検証・底引き混獲魚は宝の山

送っていただいた非出荷の底魚。木片や貝・ウニの殻も混じる

送っていただいた非出荷の底魚。木片や貝・ウニの殻も混じる

 底びき網漁業は漁法の特性上、狙った魚介類以外も網に入りやすい。「利用価値がない(低い)」と、漁獲後直ちに海へ戻されることで、世に知られていない魚も多いが、それを無用な生物と決めつけるのは性急過ぎる。知られざる味に出合えるかもしれないし、非食用でも新しい価値が見いだせるかもしれない。その可能性を探ってみた。

全部もらって検証しました

ギス(オキギス)と思われる魚から、金色の浮袋が見つかった

ギス(オキギス)と思われる魚から、金色の浮袋が見つかった

 底びき網で獲れた漁獲物のうち、出荷した残りの魚介類すべてを眺め、触って、食べてみる「深海ギョッチ」という企画が今月、都内で開かれた。この日の素材は、新潟県糸魚川市の小型底びき網漁船が、水深300メートル周辺でマダラを狙った網の混獲物で、ヒトデやイソギンチャクのほか、流木や岩も混じっている。正真正銘、獲れた物すべてだ。

 参加者には初見の魚ばかり。ハタハタなど和名が即座に挙がるものは極めて少なく、「カレイの仲間」のように具体例が出ればまだまし。大半が「長い」「丸い」としか表現できなかった。
 似た者同士で分類すると、少しずつ食材に見えてくる。細長くゼラチン質の体が特徴的なゲンゲも、複数の種類が混じり、分けて丁寧に並べると、日本海沿岸の魚売場に見えなくもない。

揚がった魚を甲板で選別する底びき網漁業者

揚がった魚を甲板で選別する底びき網漁業者

 アンコウに似たアカドンコは意外とかわいい。サケビクニンはサケの身の色が名前の由来といわれるが、サーモンピンク色とは別物。丸いヒレ(エンペラ)が耳のように見えるミミイカは、オスの触腕が異常に長い。「メスを捕まえるため」と教えてもらい、真偽はともかく納得できた。

 主催した「さかなの会」のながさき一生代表ら、魚に精通したスタッフの解説で仕分けが進んだが、図鑑を探しても、種を特定できない魚があった。それはそれで「新種か!」と盛り上がる。

何を、どこまで食べられる?

分類図鑑を見ながら種の同定を行った

分類図鑑を見ながら種の同定を行った

 名前の分かるものは、順に食べてみた。揚げれば大体が間違いない。

 知名度はあるが「小さい」「漁獲時に切れた・スレた」という理由で売れなかった魚介類は、姿かたちが違うだけで味に変わりはなし。ゲンゲ類は近年になって消費が増えたとはいえ、まだまだ地方色が強い。上物でないと売れないらしく、残りをたらふくいただいた。もちろん「まずくはないが―」と言葉に詰まる魚も、確かにあった。

 手間を抜きにすれば「お金が取れる味」と評価された魚は非常に多い。それ以上に、未知なる魚を触って、食べた参加者が「ドキドキ、ワクワクした」と、総じて楽しんでいたことに驚いた。

大人版“チリモン”になるか

 主催したながさき代表によると、情報サイトに企画を公開してすぐに、定員の10人が埋まったそうだ。4年前にも同じ企画を主催したが「当時とは反応が全く違う」という。深海魚を扱うテレビ番組が急増しており、驚きを与える見た目と謎に満ちた生態は、交流サイト(SNS)のネタに最適。時流に合っているのだろう。

 ながさき代表は「チリメンモンスターの大型版ですよ」と言う。共通項は確かにあり、老眼の高齢者には大きな魚の方が喜ばれるかもしれない。

手間を惜しまなければ、おいしい天丼も作れる

手間を惜しまなければ、おいしい天丼も作れる

 ただし、解説者の素養に難易度は高い。漁場の位置と水深、季節、操業者で混獲物は大きく変わり、事前に想定をしづらい。同定できない種を食べては、毒や底魚特有の脂で体調を崩す恐れがあるほか、鋭角なヒレをもつ魚はけがをしやすい。

 肝心なことは、魚を提供する漁業者が「こんなものを送っては失礼だ」と躊躇(ちゅうちょ)するほど、企画は盛り上がりに欠ける。

 他方、それを陸に持ってこられるのは漁業者だけであり、解説や調理の適合者は漁村にこそ豊富だ。「都会の人はそんなことが楽しいのか」とあきれずに、唯一無二の宝を育ててみる価値はある。

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