Vol.90  未来の食シーンが変わる?「すしテレポーション」注目

テレポーテーションで寿司が食べられる?

テレポーテーションで寿司が食べられる?

 日本の一流寿司職人が握る寿司を、瞬時に遠く離れた異国で食べられるとしたら…。一見、非現実的なようなことが近い将来、現実になるかもしれない。今春、米国で開かれた最先端技術などをアピールする展示会で、日本発の“すしテレポーテーション(転送寿司)”が紹介された。まだ現実の世界ではないが、未来の食シーンが大きく変わるかもしれないこの新技術、低迷する魚食文化の救世主にもなるかも?

3Dプリンティングで素材を再生

カウンターの向こうは職人ではなくロボット

カウンターの向こうは職人ではなくロボット

 米国テキサス州オースティンで開かれたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)展示会は、世界中のベンチャー企業があらゆるジャンルの新しいテクノロジーを発表する場。“すしテレポーテーション”はわずか2畳程度のスペースで紹介され、驚愕(がく)したメディアや来場者による情報発信で、瞬く間に世界で注目されることになった。

 食のテレポーテーションを実現させるため「オープンミールズ構想」を発案したのは、電通でアートディレクターとして活躍する榊良祐氏。「印刷には欠かせないCMYKという色分解の概念を再構築して再現できるものはないか? それが人類にとって重要な食ではないか」と思ったという。「SSSB(ソルティー、サワー、スイート、ビター)を味のカートリッジに入れ、例えば食べられる紙に印刷すれば、いろいろな味が再現できる」と榊氏。次に味をどうやってデータ化するのか、開発者のアドバイスを受けながら、ゲルを使って3Dプリンティングを研究している山形大学の古川研究室の協力を得て、現在10人程度の「チームオープンミールズ」として活動する。

 「社内コンペがきっかけで個人で動いてきたことが、ここまで大きなプロジェクトになるとは思っていなかった。食品加工技術や料理人、栄養士の知見なども必要だし、料理をデータ化することや、プリンティング技術などいろいろな産業をまたいで情報を共有しながら実現に向け進めるのがまさにオープンミールの目指すところ」という。そして料理を構成する味や食感、風味などをデータベース化した「foodbase」作りも同時に目指す。

「食の不均衡の是正になれば」と榊氏

「食の不均衡の是正になれば」と榊氏

 今回、展示会の食材として“寿司”を選んだのは、世界で共通言語になりつつある寿司にすれば注目度はアップするし、実際に寿司に使われているマグロやイカといった食材を再現することは実はいちばん困難であり、だからこそ未来への提示になると踏んだからだ。「世界には飢餓で苦しんでいる地域もあれば、食べ過ぎで不健康になったり、食品ロスにつながっているものもあり、食の不均衡がある。その是正に、この新技術が使われたらすごい」と構想は壮大。

 当面の目標は、来年の展示会で実食できるレベルにもっていき、2020年東京五輪・パラリンピックの年には、プロトタイプでも実際に食べられるレストランを東京にオープンさせること。この先どのような形になっていくのか、テレポーテーションで魚が食べられる時代がくるのか、期待したい。

米国SXSW展示会では世界の注目に

米国SXSW展示会では世界の注目に

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