Vol.97  外食業界初 うま味たっぷり干物鍋

干物を使った具だくさんのちゃんこ鍋

 神奈川県内で飲食店を16店舗展開する(株)若竹(横浜市)は、業務提携する干物メーカー・(株)伴助(福島県いわき市)のブランド名を掲げる旗艦店「高級ブランド干物『銀座伴助』銀座本店」でこのほど、外食業界初の干物鍋「骨取り干物 絶品だしちゃんこ」を秋・冬メニューとして提供し始めた。干物でちゃんこ鍋とはどのような料理なのか。実際に話を聞いた。

骨取り加工で食べやすく

シマホッケとアカウオの干物(調理前)

 具にしたのは米国産のシマホッケとアカウオの干物だ。普段は定食のおかずで提供している干物を焼かずにそのまま鍋へ入れる。若竹の田口優英社長は「ギンダラやキンキ、サバなど15種類ほど試した結果、この2つがいちばん鍋に合った」と味に太鼓判を押す。1人前は、約250グラムの切身をそれぞれ3切れだ。

 そのほかに、岩手県産ブランド豚の「岩中豚」のバラ肉や宮崎県産のブランド鶏の「日向鶏」、ハクサイ、シュンギク、シイタケ、焼き豆腐、ツミレ、油揚げ、しらたき、長ネギなどさまざまな食材がふんだんに使用される。「野菜、肉、干物の順に入れる。干物は身を下にしてフタをするように並べ、弱火で7?8分ほど煮ることで、スープに肉と干物のうま味が広がる」と作り方のコツを説明した。

干物鍋の魅力を語る田口社長

 伴助の干物は、両面に均等に骨が乗るように背骨の中心からカットされているため、味や焼き加減にムラが出ない。魚醤とホタテエキスに10?15分漬け込み、高温を当て、干物の表面に膜を作ったあと、冷温で〆て魚のうま味を熟成させる「2段階高温熟成法」で製造する。百貨店やスーパーマーケットの売場で高級干物としての評価を確立した自慢の製法だ。

 干す時間は通常3?4時間だが、伴助は12時間以上干すことでうま味を濃縮し、グルタミン酸やアミノ酸を引き出す。そのため「鍋に入れると凝縮された干物のうま味がダシ汁に広がる。締めのご飯時までスープがおいしい鍋になっている」。

 使用される干物は骨取り加工が施されているので食べやすい。700グラム以上の脂乗りのよい身の厚い魚のみを使用するため、煮崩れせずにふっくらした食感を楽しめる。

秋・冬の売り上げ対策に

銀座伴助の外観。昨年3月の移転で店舗面積を3倍に広げた

 田口社長は「伴助の干物に惚(ほ)れ(本社のある)福島まで小野喜尚社長に直談判に行った」と出店に至る経緯を振り返る。

 「生産者の顔を見て、どこでどのように食材が作られるのか知ることが大事」とのモットーに従い、社員を伴助の加工場に派遣。干物の加工体験をさせてきた。それは今も続いている。現場を学ばせることで「お客さまにも気持ちを込めて商品の魅力を伝えられる」。

 そうして理解を深めてきた伴助と共同開発したのが今回の干物鍋だ。一般的に干物は秋から冬にかけて売り上げが落ちるが、その課題解決を目指す意図があった。「1年の試行錯誤のあと、昨年10月から提供を開始した。年末の忘年会では干物鍋の飲み放題のコースが盛況で、約300組からの注文があった」という。いかに干物に対しての潜在的なニーズがあるかを示す結果となった。

10年で半減の現状を打破

 干物の販売は近年、消費者の調理離れの進展に伴い縮小の一途をたどる。総務省の家計調査によると、干物の代表格である「干アジ」の2018年の年間購入数量は575グラムと08年(1076グラム)から半減した。

 凝縮されたうま味と適度な塩気がある、焼きたての干物はおいしいと知っていても、焼く作業や調理器具の片付けが面倒で、生ゴミも出て、骨を取り除く必要があることから、若年層の消費者を中心にして敬遠されてきた。

 しかし、外食提供と骨取りを組み合わせて消費者の心理的ハードルを下げれば、干物はいまだ売れることを外食業界初の干物鍋は実証した。八重洲や日本橋への出店計画もある「銀座伴助」は、干物鍋などの試みを通じて、離れた消費者をもう一度呼び戻す。

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