Vol.54  “出来たて”より美味い「水産缶詰」

缶詰にも食べ頃がある

缶詰にも食べ頃がある

 鮮度を至上の価値とした消費の喚起は、缶ビールやマヨネーズほか、日持ちのする加工品でも近年、特に増えている。だが、製造した日付が新しいほど、うまいと 言い切れるものではない。「発酵」「熟成」に代表される、うま味成分の増加術は 言うに及ばず。同じ商品でも、出来たてより時間を置くことで、うま味を増す水産 加工品の認知度の向上で、よりお得な消費を促したい。

寝かせてお得な加工品、水産缶詰は半年後から

缶フタに記される賞味期限は「おいしく食べられる」期間の目安

缶フタに記される賞味期限は「おいしく食べられる」期間の目安

 一般に缶詰は、製造から3年間が賞味期限とされる(正確な日付は缶フタに表示)。あくまでもメーカーが保証する「おいしく食べられる期間」なのだが、この間、缶詰の味が不変というわけではないようだ。日本缶詰びん詰レトルト食品協会公認の缶詰博士・黒川勇人氏は、水産缶詰に特化した場合、缶詰の食べ頃を「製造から半年ほどたってから」と答える。

 「調味液が魚肉へ、魚肉エキスが調味液へと対流し、缶全体の味がなじむまでに半年はかかる」(黒川博士)ため。一般的な煮魚と同様、出来たてはどうしても、魚の表面と中で味の染み込みにムラが生じる。だが、時間の経過とともに、味は丸く、まろやかになる。醤油煮缶や味噌煮缶に限らず、水煮缶や油漬け缶でも同様だ。

 また、製造したての缶詰は、身が軟らかい。時間とともに、調味液に含まれる塩分で浸透圧が働く。半年ほど時間がたつと、適度な水分が抜け、身が締まり、歯触りがよくなる。

 業界内では「缶熟」と呼ばれるうま味の創生で、缶詰加工特有のもの。つまり水産缶詰の場合は、おいしさと鮮度(日付の新しさ)が正比例するわけではない、ということだ。

 密封、脱気後に有害菌を加圧加熱殺菌することで缶詰は、細菌の発育といった腐敗がなく、長期間の保存性をもつ。理論的には、開封しなければ10年以上たっても、問題なく食べられる。ただ、賞味期限経過後については、貯蔵中の温度などの影響を受け、極めて緩やかだが、味や香り、色などの品質に、変化を生じるものもある。

 「水煮缶は基本的に変わらない。ただし、味噌や醤油缶は製造から5年くらいで、メイラード反応を起こす」(同)。調味液に含まれる糖と、魚のアミノ酸などが起こす化学反応で、色変わりし、味が抜けることがあるというのだ。

 また、海外に多い青魚のトマト煮は、5年ほどたつと生臭さが強調されるという。食品としての安全性や衛生面に問題はないのだが、黒川博士は「それを疑いたくなる変化」と話す。

 注意すべき点は、缶が膨らんでいないか。あるいは、穴や隙間はないか。何らかの原因で菌類や微生物が活動すれば、ガスを発生させ缶が膨らむ。また、穴や隙間があれば、微生物などが入って衛生状態が保証されない。

 こうした点にさえ留意すれば、缶詰は賞味期限の日付が過ぎた途端に食べられなくなるわけでなく、長期間の保存に耐える。ただ、安全とおいしさは、別問題だ。

 「おいしさ」に観点を置いた場合、黒川博士は「製造後半年から3年(賞味期限内)が缶詰の食べ頃と考えて間違いない」と強調。「ほかの加工食品同様に、缶詰という調理法ならではのうまさがある」と、缶詰の特性を語る。

「含気包装」保存と熟成を同時進行

 長崎県対馬の(株)対馬ウエハラ(上原正行社長)が発売する「ゆでひおうぎの貝柱」(写真)は、一見すると真空包装だが、袋内に10%の空気をあえて残した「含気包装」で、保存と熟成を同時進行させている。

 専用機を用い、空気を10%残し2気圧でレトルト加圧殺菌加工をする。袋内に残る腐敗を促進させる嫌気性菌は死滅し、好気性菌だけが残るのだが、くしくもこの好気性菌が、ヒオウギ貝の熟成を促す。

 また、袋詰めする前にヒオウギ貝を液体にしたフノリに漬けコーティング。ヒオウギ貝の抗菌性が高まるほか、喉の通りがよくなり、嚥(えん)下障害を起こしにくくなるという利点もある。

 空気を完全に抜く真空包装では、徐々に味は染み込んでも、熟成はせず、真空包装による圧迫で、水分を過剰に抜き落とすこともない。本品は常温保存でき、賞味期限は6か月。含気包装に着目した同品を上原社長は「時間がたつほどにおいしさが増し、6か月後に最大のうまさを発揮する」と評価する。

 鮮度を至上の価値とした消費の喚起は、缶ビールやマヨネーズほか、日持ちのする加工品でも近年、特に増えている。だが、製造した日付が新しいほど、うまいと言い切れるものではない。「発酵」「熟成」に代表される、うま味成分の増加術は言うに及ばず。同じ商品でも、出来たてより時間を置くことで、うま味を増す水産加工品の認知度の向上で、よりお得な消費を促したい。

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