兵庫県宝塚市の「PESCE D’ORO(ペッシェドーロ)」は、魚屋だけど鮮魚を扱わない。冷凍魚介類の販売に特化した店だ。外観や内装はおしゃれなカフェのようで、飯田英二代表は長靴を履かず、防水エプロンもまとわない。イメージする“魚屋”とはまるで違っていた。
店内は魚屋に定番のショーケースがない。うろこ模様のタイル壁を土台に、白い板のカウンターがあり、その上にラミネート加工したメニュー表が乗っている。
どうやら「カツオのタタキ」があるらしい。ただ、トレーには並んでいない。「シジミ」もざるに盛っておらず、「干物」は天日に干されていない。それでも店舗では販売しているという。
メニューの中から商品を選ぶと、店舗奥の冷凍庫から、凍った状態で出てきた。冷凍魚だ。
飯田代表は生まれ育った高知県で新鮮な魚介類に囲まれ、当たり前のように魚を食してきた。だが、大学進学を機に高知を離れ関西圏に来ると、自身が魚離れしていたことに気付いた。宝塚周辺では、質の高い魚介類を日常で手に入れにくい。だからこそ「どこにいても手軽に、おいしく魚を食べられるようにしたい」との思いが募った。
当初は鮮魚店を開きたかったという。だが、近年は冷凍技術が発達し、産地と変わらない味を楽しめる品目が増えたことを知った。飯田代表も実際に食べ比べ「魚は冷凍することで、産地の鮮度を味わえる」と実感したことから現在の店のコンセプトを思いついた。
冷凍魚には鮮魚にないメリットがある。消費期限が長いため、売れ残りによる廃棄ロスは激減した。これは店頭に限らず、購入し家庭へ持ち帰ったあとも同様だ。メニューは調味料を合わせても25品程度と決して多くないが、季節や天候に左右されず、価格も一定で販売できる強みがある。「カジキの生ハム」といった珍しい商品もラインアップに加えることができた。大きな騒ぎとなった寄生虫のリスクも、凍結で回避されている。
商品は自分で食べて、おいしいと感じたものに限定している。売れ筋の「藁(わら)焼き鰹たたき」は、「食べる直前に真空パックのまま流水解凍し、少し芯がある状態で食べる」。干物は「冷蔵庫で1日かけた自然解凍がお勧め」など、店頭ではよりおいしく食べられる解凍のコツを教えながら販売をしている。「いわし丸干し」は年配のお客さんから「本来の魚の味がする」と評価が高い。
飯田代表は1級建築士として、デザイン会社の社長も務める。店舗のデザインも飯田代表が手掛けた。外観では魚屋とは分からず、「認知してもらうのに時間がかかった」と苦労もあったようだが、試食を通じて味を認知してもらうと、存在は口コミで広がった。
大きな窓から取り込んだ外光は、白と青を基調とした店内で暖かく映り、「魚屋はハードルが高い」と敬遠がちだった若い世代を中心に、「洋服を選ぶ感覚で入りやすい」と、評判がよい。
新発想の業態は昨年夏に、宝塚商工会議所が開いた創業セミナーで「〈次世代型〉デザイナーズ・サカナヤ」として具体化された。今年2月にエントリーした「第4回全国創業スクール選手権」では、大賞の経済産業大臣賞に選ばれた。
同店では冷凍魚のほか水産缶詰、水産系の調味料、さらに提携店のパンも売っている。「おいしい同店のバンズを使用したフィッシュバーガーも売り出したい」との構想もある。そのほかにも「料理や魚の教室を開くことで、街のコミュニケーションの核となる店にしたい」と展望を語った。
なお、店名のペッシェドーロはイタリア語で「黄金の魚」を意味する。