日本の食で今、急速に健康・美容志向が高まっている。もともとヘルシーな魚食が今後ますます注目を浴びるのは確実だ。だが、薬効ある食材として古くから食べられていながら、なかなか日本国内で再評価されない食材がある。それがナマコだ。
現状、国内生産のほとんどが中国へと向けられ、日本の国内消費は伸びてこない。健康・美容食としてのナマコをもっと身近にできないか?ナマコ関係者の奮闘を紹介する。
ナマコは、日本で水揚げがある水産物でも昔から異質の存在だった。通常、日本と中国の両国で漁獲がある水産物は、日本の浜の取引価格が中国より平均的に高い。だが、ナマコは真逆。日本の浜の方が安いため、中国からの引き合いが強く、乾燥品や塩蔵品が香港経由で中国へ流出してきた。
中国のナマコは、漢方医学の中で多くの効能が認められているほか、贈答や接待用食材として超高値で取引されている。
2000年代半ばには「ナマコバブル」を日本にもたらし、浜は活況に沸いた。その後はリーマン・ショックや習近平体制下での商業賄賂の取り締まり強化で一服感が出たものの、14年時点でも日本の水産物の輸出金額で五指に入る品目だ。
一方、日本でのナマコは、一部地域で正月の縁起物として酢の物などにして生で食べるか、「くちこ」(生殖巣を三味線のばちのような形状に乾燥させたもの)や「このわた」(腸〈はらわた〉の部分を塩漬けし、熟成させたもの)などの高級珍味としてわずかに消費されるだけだった。ただ、これも「ナマコバブル」以降の浜高で、国内消費を進めるにも高すぎる価格がネックとして立ちはだかった。
石川・能登半島の水産加工業者でつくる能登なまこ加工協同組合(杉原省理事長)は近年、全国のナマコ関係者に参加を呼び掛け、「全国なまこサミット」を実施。国内でナマコ食をいかに広めるか議論を重ねてきた。
先月20日、石川・和倉温泉「あえの風」で14年度のサミットを開催。ナマコの機能性の評価で先んじる中国出身の専門家・北陸大学薬学部の劉園英教授を初めて招き、漢方医学の観点からアドバイスを受けた。
日本ではナマコは漢字で「海鼠」と書くが、中国では「海の朝鮮人参」を意味する「海参」と書くなど、疲労回復・免疫力アップ・滋養強壮・美肌の効果がある漢方薬として、高い人気がある。
劉教授は、新商品開発のうえで「成分のみを抽出したサプリメントではなく、乾燥粉末を練り込むなどしてナマコのまま活用する」ことや「味がないので別の味付き食材と組み合わせる」ことを、漢方医学的にみた理想の方向性として述べた。
ナマコに豊富に含まれている美肌効果のコラーゲンでは「加熱するとより吸収しやすくなる」と特に述べる一方で、「日本国民は『ブーム』になりやすい民族。ナマコの機能性をしっかり浸透させれば、ナマコ食は受け入れられるはずだ」と、関係者にエールを送った。
杉原理事長をはじめとした、能登なまこ加工協同組合の面々は、「くちこ」「このわた」の加工時に出る端(は)材の乾燥粉末を使い、関連加工品の商品開発を行って販促活動を展開してきた。
劉教授の助言に杉原理事長は「ナマコの価格高騰が、日本向け新商品開発の壁となっている」と、高コストがネックとなっている現状を嘆いた。
ただ、「ナマコが機能性の面で優れている点をもっと発信できれば、味や価格の不利をはねのけられるはず」とも強調した。ナマコ食を日本の健康・美容食のスタンダードへ?杉原理事長らの挑戦は今後も続いていく。