Vol.36  丸魚が売れるスーパー/魚好きが満足する店を目指し

ウロコも残る高鮮度のカタクチイワシ。「スーパーでなかなか売れない魚だが、当店では刺身用に買う人もいる人気の魚」と米沢聖第一商品部統括部長

 丸魚を捌いて食べる文化が薄れていく中、スーパーの鮮魚売場の多くは、魚の加工度を高めて惣菜や加工食品中心に変え、消費者に魚を手に取ってもらう仕掛けづくりに奔走している。

 そんな状況にあって、いまだ丸魚にこだわり、しかもここ最近、鮮魚の販売を大きく伸ばしているスーパーがある。神奈川・横須賀市にある?エイヴイを訪ねた。

エイヴイ/神奈川県横須賀市

鮮魚販売のコーナー。中央に「魚の加工・調理はお受けできません」の文字がみえる

 魚をバラ売りするコーナーに「魚の加工・調理はお受けできません」の掲示。?エイヴイの店では、下処理の要望は受けていない。しかし、並ぶ魚は丸が主体で、切身がせいぜい。持ち帰り寿司さえない。最近のスーパーでは珍しい光景だ。

 想定する顧客層を、本当に魚が好きな方と割り切ることで、思い切った品揃えにつなげている。

 「本当の魚好きなら、魚をおろす技術をもっておられるはず。われわれの仕事は、魚好きな人に、品質、鮮度、価格の面で満足できる素材を提供すること」と話すのは、山田秀雄副社長。地元で揚がった魚をはじめ、高鮮度のえりすぐりを並べる。

 スーパーの来店ピークは夕方が多いが、エイヴイの鮮魚売場が最も混むのは午前中。「いい魚を求めて、早くから買いに来る方が多い。夕方には魚がなくなり、陳列棚が閑散とすることが普通にある」。品切れの発生に臆病なスーパーが多い中で、驚くべき話だ。

 惣菜がないからバックヤードの作業も少ない。品切れをいとわないから日々のロスも最低限。加えて、物流を含めて会社全体の現場経費を徹底的に見直し、本来ならもっと高く値段設定しないと割に合わない品質の魚を、かなりの低価格で提供する姿勢に徹している。

コアな層を満足させる

平日午前中から駐車場が混雑する平成町店。神奈川県中心に10店舗を展開する

 「大手と同じ手法ではかなわない。いろいろと試行錯誤する中で、魚の捌ける方がもともと多かった地元のお客さまに、どうやったら店を利用してもらえるかを追求した結果、今に行き着いただけ」と、山田副社長は苦笑いする。

 それでも「魚好きな方は減ってはいるが、今後ゼロにはならない。まとまった人口がいれば、それなりの数になる。魚好きな方が、少々遠出をしてでも魚を買いたいと思える場所にしたい」と話す。

 魚がおいしいと分かれば、消費者は何度でも利用する。当たり前ではあるが、基本的な好循環が、エイヴイの鮮魚売場には体現されつつある。

 「全国には、魚の〆方一つから、血のにじむ努力をされている産地がまだたくさんある」(山田副社長)。今後は、そうした産地の魚を積極仕入れし、丸魚の質を一層高める計画だ。

 消費の裾野を広げる魚食だけでなく、エイヴイのように、コアな層を満足させる魚食が、もう一度注目されていい。

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