Vol.86  ぐるなび外国語版でメニュー紹介

スマートフォン検索でメニュー情報が照会できる飲食店に観光客が大行列

スマートフォン検索でメニュー情報が照会できる飲食店に観光客が大行列

 築地市場内の「魚がし横丁」の外国人観光客の行列は、すっかり日常の風景となった。耳をそばだてるとさまざまな国の言語が飛び交うさまは、さながら異国のようだ。だが、よくよく見ると同じ寿司、海鮮丼を出す店でも、行列の規模が全く違っている。なぜこのような差が出るのか。飲食店に対するインバウンド(訪日外国人)の誘客支援の面で業界を先取りしてきた(株)ぐるなびに聞いた。

メニュー情報変換が転機

カギは「メニューの外国語表示」と語った水野氏

カギは「メニューの外国語表示」と語った水野氏

 日本最大級の飲食店情報サイト「ぐるなび」を運営するぐるなびは、外国人向けに加盟飲食店を紹介するサービス「ぐるなび外国語版」を、インバウンド誘客における業界の先駆けとして2004年に始めた。企画開発本部企画第2部門統括次長兼グローバルグループグループ長の水野裕敬氏は「日本は少子高齢化。日本人のお客さまだけを対象にした飲食店の経営では、将来的に売り上げが伸び悩む可能性があった。飲食店を支援する当社としては、いち早くインバウンド領域のサービスを用意する必要があった」と着手に動いた理由を話す。

 初期の「ぐるなび外国語版」の掲載店舗数は数万店に及んだが、詳細情報の翻訳は費用負担の大きい人力翻訳に依存しており、頻度の高い情報発信が難しかった。しかし、2020年の東京五輪・パラリンピックが決定した13年を機に、サービスの拡充に向けて大きく動き出す。

エリア検索も可能。最初の3つは検索の上位順に並ぶ。新宿、銀座、渋谷

エリア検索も可能。最初の3つは検索の上位順に並ぶ。新宿、銀座、渋谷

 「かつての『ぐるなび外国語版』を訪問した外国人が不便に感じていたのは、メニューの外国語表示がないことだった。食材は何か。魚でいえば刺身か、焼き魚か、煮魚か。どんな味付けかも不明。店の基本情報だけでは、9割の人が何もせずサイトから離脱していってしまっていた」。

 そこで蓄積してきたノウハウを基に、食材、調味料、調理方法を日本語登録するだけで、自動で4言語(英語・繁体字・簡体字・韓国語)に変換され、豊富な画像とともに外国人向けに発信できる「メニュー情報一元変換システム」(特許取得済み)を開発し、3年前に運用を始めた。

 「『加盟飲食店の皆さまのためになる』との一心で全社一丸となって加盟店に向けて同システムの導入を呼び掛けた。1万店規模に達する頃には、加盟店からの口コミも助けとなって導入は加速度的に広がるようになり、利用店舗は2万7000店を超えるまでになった。実際に外国人観光客の来店増加の効果は大きく、冒頭の行列の事例にみられるように、インバウンド対策に積極的に取り組んでいる飲食店は飛躍的に来客数や売り上げを伸ばした。

スマホでシンプルに

「ぐるなび外国語版」サイトを挟んで、(右)に水野氏、(左)に同システムの開発を指揮する久富謙介氏

「ぐるなび外国語版」サイトを挟んで、(右)に水野氏、(左)に同システムの開発を指揮する久富謙介氏

 「ぐるなび外国語版」は昨秋、さらなる進化を遂げた。今度はユーザーである外国人観光客の使いやすさを追求した。「海外サイトをみると、ユーザーを迷わせないよう非常にシンプル。当社も、外国人のお客さまが欲しい情報にすぐにたどり着ける設計に進化させた」。

 完成したのは、初の訪日で右も左も分からない観光客向けには選択に迷わないための「Recommendations(お勧め)」を設け、リピーターや長期滞在者向けには日本人と同じ目線から飲食店を検索できる「All(すべて)」とする、入り口部分から分割するスタイルだった。

 「初めての訪日客とリピーターでは求める傾向が確実に違っている。初訪日の場合は水産でいえばカニ、フグ、寿司などを出す高級店を選ぶ傾向があるが、来日回数が複数になると、意外にも雑多な雰囲気を残した居酒屋に行きたい、といった声が多くなる」。

 また、検索画面はスマートフォンに最適化させた。外国人観光客は日本に来てまでいちいちパソコンで調べない。検索は当然スマートフォンだ。

 ここ1年は、店の雰囲気が視覚的に伝わりやすい動画紹介の効果が注目され、加盟店からぐるなびへの動画制作依頼が急増しているという。制作コストが安くなっていることもあって「各地から多数のご要望」が来ていて、現在は順番待ちの状況という。

質のいい店“お勧め”

 ただし、まだ「ぐるなび外国語版」には足りない部分があるというのが水野氏の考えだ。「例えば、居酒屋に行きたいと外国人が口にする時に今は決まった店の名前しか出ない。僕ら日本人は、外国人は知らないけれど質のいい居酒屋が国内に無数にあることを知っている。それをうまく紹介できる仕組みづくりをしたい」。ぐるなびの模索はこれからも続いていく。

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