刺身や寿司など、今や日本中にファンをつくった生食用サンマ。今年もシーズンを前に楽しみにしている人も多いだろう。しかし、ちょっと思い起こしてほしい。サンマの生食といえば、産地でしか食べられないものの定番だったはずだ。水産物の家庭内消費が軒並み減少する中、サンマの消費が安定、もしくは増加傾向を保つヒントがそこにあった。
サンマの消費量を追ってみると、「グラフ?」のように平成11年まで減少していたものの、以降は急速に増加へと転じた。漁獲量の増加も要因だが、記録的な不漁となった昨年を除き、現在の消費は安定している。変化をみせたこの時期は、サンマの生食文化が広がった時期に重なる。
サンマといえば塩焼きが定番だが、そこに盲点がある。サンマを刺身で食べる文化が全くなかったわけではないが、鮮度劣化が早く、産地でしか食べられないと言われていた。ところが、適切な扱いをすれば、刺身用サンマの提供は既存の流通でも十分可能だった。この10年で冷蔵・流通技術が革新的に向上をみせたからではない。気付かなかっただけなのだ。
気付いたのはだれか。それは定かでないが、そのちょっとした発想の転換が、サンマの消費を延ばしたといえる。
10年前後は、北海道でサンマの生鮮向け数量・割合が増加に転じた時期と重なる(グラフ?)。漁期初旬、脂質含有量の高い北海道サンマが、生食用を意識した仕向けに転じ出した。
サンマの食習慣が乏しかった西日本でも、「グラフ?」に示すように10年前後を境に、中央市場での卸売数量が伸長する。特に大阪での伸び率は高い。
確かにサンマは、近年の水揚量増加に加え、価格・品質が安定している優等生商材。だが、ほかの魚でも可能性はあるのかと言えば、ある。サンマの生食のきっかけとも言われる関サバも当時、サバは生では絶対に食べるなと言われていた。サーモンもそうだ。寄生虫などクリアしなければいけない課題があるが、刺身商材になり得る魚はまだまだあるはず。
日本人の好きな食べ物調査をすると、トップは寿司と刺身が定番。最近は、回転寿司や持ち帰り寿司で、刺身商材を簡単に提供できる。消費が鈍っていると頭を抱えている水産業界も、ちょっと発想を変えて、生食の可能性を探ってみてはどうだろうか。
水揚げのない西日本の量販店でも、今やサンマの刺身は定番商品となりました。一方、産地では鮮度の高さを付加価値としたブランド品も登場しています。
サンマの場合、品質保持技術の急速な発展というよりは、回転寿司店の増加などで提供される機会が増えたことにより、うまさを覚えていった消費者が増加。市場が生食を前提に、流通・販売経路を整備していったためといえるでしょう。
全国的には加熱調理される傾向のある、国産のニシン、ボラ、赤魚類などについても、サンマのように生食の機会をより増やすことができれば、鮮度や産地を重視する消費者の要望にも応えることにもなるため、消費の拡大が期待されます。