好きな物を食べたくても、体質的に受け付けない層が、ごく少数だが存在する。食物アレルギーもちの人々だ。水産品も例外ではない。免疫力の弱い小さな子に多く、その人数は年々増えている。
東京・調布市の小学校で昨年末に起きた死亡事故は記憶に新しい。弁当持参で回避はできる。
しかし、体が成長して体力がつきアレルギーを克服しても、原因食物に苦手意識が残り続けることになれば、将来的な魚食低迷にもつながりかねない。今回は、水産分野で食物アレルギー対応の除去食や代替食の提供に努める納入業者やメーカーを特集する。
食物アレルギーの原因の半数は卵と乳製品が占める。卵を例にとると、魚卵はもちろん、水産ねり製品のつなぎに卵白は欠かせない。都内230の小学校と15の保育園の給食用食材を納める丸幸水産(東京都江東区、小堺洋市社長)は、アレルゲンフリー(アレルギーを起こさない)水産食品に対応している数少ない納入業者の一つだ。
「5年ほど前からアレルゲンフリー食品の要望が増え始めた」と小堺社長。特に昨年末、アナフィラキシーショック(多臓器にアレルギー反応が出て血圧低下・意識消失を招く)で、児童が死亡した事故が転換点となった。「各校の栄養士の方がずいぶん気を遣うようになった。他社で対応を断られたと、問い合わせる学校が増えている」。
同社が水産ねり製品を納める場合、築地市場から買い付けし、毎朝チルドで配送している。それとは別にアレルゲンフリー食品を、倉庫に備蓄。都度解凍し、必要な枚数が数枚であっても、厳重により分けて届ける。手間もかかるが、その分はすべてサービスで対応している。
小堺社長は、「食物アレルギーのお子さんをもつ保護者の方も、本音はほかの生徒と同じ料理を食べさせたいし、お子さんも気にすると思う。その悩みを解消してあげたい」と語る。
「子供のころに食べた経験のない料理は、大人になってからも食べない。子供のころに魚の味を覚えてもらうため、食物アレルギー対応はもっと突き詰めたい」。
アレルゲンフリーのねり製品は、スリ身のグレードを上げたり、配合を工夫したりして作るが、まだ扱っているメーカーも少なく、通常品の味にはいまだ及ばない。しかし、逆にいえば進化する余地も大きい。今後も食物アレルギーと魚食の闘いは続いていく。