Vol.50  めでタイを復活させタイ

 マダイは色・形・味など何拍子も揃った日本の海魚の王。「めでたい」の語呂から、結婚式や出産祝いなど慶事に欠かせない魚だ。ただ、その風習は現代に受け継がれているとは言いがたい。世界で和食が注目されている今、日本食におけるマダイの伝統的な地位をきちんと知らずして、日本の食文化や美意識を世界に正しく伝えられるのか。今こそ「めでタイ」復活の時がやってくる。

海魚の王者、ここに在り

色や姿形など、風格が際立つ

色や姿形など、風格が際立つ

 「祝いのタイの意識は確実に薄れている」と、築地仲卸・シマヅの島津修社長。「バブル経済以前は、結婚式のハイシーズンや成人式、入荷が少ない時期など、マダイの卸値はキロ3000ー4000円にもなった。それでも、マダイでなくてはならなかった」。

 ところがバブル崩壊後は様相一変。「代わりが利くならそれでよい」「金をかけるべきことはもっとほかにある」とマダイの出る場面は減り、いつしかマダイを「海魚の王」として敬う習慣は消えた。

 しかしマダイは、伝統や格式だけの王者ではない。刺身や塩焼き、漬魚、煮魚、天ぷら、干物、椀(わん)種ほか、和洋中どんな料理にも適する。身だけでなく、頭はかぶと煮、真子や白子は椀物、骨からは良質なダシが取れるなど、余すところなく使い切れる。こうした点も、王が王たるゆえんだ。マダイを扱い20年になる横浜丸魚鮮魚課の宮島悟嗣課長補佐は、「マダイは無限」と言う。

逆輸入で再評価の手も

マダイのうしお汁。頭や骨から良質のダシが出る

マダイのうしお汁。頭や骨から良質のダシが出る

 価値観が多様化した現代だからこそ、マダイの魅力を正確に伝えられれば巻き返す余地はある。

 島津社長は、和食の世界発信と合わせ、「『日本でリスペクトされてきた魚』『クールな魚』で売ったらどうか」と提案する。日本人が気に留めなかった日本文化が、海外で認められ、それを糸口に自身の文化を見直す事例は多い。「めでタイ」を食べることが、海外で「クールな食文化」となる流れができれば、若い人もマダイへの認識を変えるかもしれない。

 いまだマダイに敬意をもち、財布に余裕のあるシニア世代へ呼び掛け、孫の節句や誕生日など慶事食にとして勧める手もある。「めでタイ」を後世へ、確実に伝承できる。

 産卵のため群集する春マダイの「桜鯛」「花見鯛」や、産卵後に再び栄養を蓄える秋の「紅葉(もみじ)鯛」など、消費者がマダイと季節を明確に想像しやすいネーミングを工夫する手もあり。「めでタイ」以外の語感のもつイメージも膨らませ、積極的にマダイ復活のために活用していきたい。

あやかり全盛ゆえ王道

 一方、マダイに姿が似るチダイやキダイほか、近年はフエダイやコショウダイなどの「あやかりタイ」が「おいしくて珍しく、話題性のある魚と重宝されている」と、宮島課長補佐は紹介する。

 マダイの知名度が成せる技かもしれない。さまざまな味を食べたがる時代の要請という見方もある。「ならばここへ、王道のマダイを当て、味をしっかり訴求すれば、『やはりマダイだ!』と再認識されるのでは」と強く主張する。

高齢者も丸ごと尾頭付き

電子レンジや湯せんで温めるほか、ご飯と炊き込む「鯛めし」利用にも

電子レンジや湯せんで温めるほか、ご飯と炊き込む「鯛めし」利用にも

 愛媛・東温市のキシモトは、骨まで食べられる干物「まるとっと」の製造・販売を行っている。ただでさえ骨の硬いタイ(キダイ)も、適切な高温・高圧処理と水分保持により、見た目に美しい丸魚でありながら、指で押すだけで崩れるほど、軟らかな骨とした。

 喜んだのは、子供より高齢者という。「記念日や祝い事にタイが食べたい」という要望を、同品がかなえたからだ。「家族3?4世代が勢揃いする結婚式で、みんなが同じ『尾頭付き』を食べられた」という喜びの声もある。高齢者施設ほか、ブライダル関連では金婚式など記念式典にも、需要を創出している。

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