世界の人口の4分の1がイスラム圏の人たちといわれる。経済発展により所得も上がり、観光での訪日も着実に増えている。そして「日本のおいしい食品を食べたい」と日本食への期待は高まるばかり。
しかし、残念ながらそんなイスラム圏の人たちに日本の水産物を安心して食べてもらえる環境が整っていないのが現状だ。壁として立ちはだかっているかにみえる“ハラル認証”。しかし、正しい知識で取り組めば意外とそこには多くの可能性を秘めた市場が広がっているといえそうだ。
そもそもハラルとは、イスラムで許された「健全な商品や活動」のことを指し、禁じられた物事をハラム、あるいはノン・ハラルという。
宗派や地域によっても事情が異なるが、東南アジアのイスラムでは水産物は基本的にハラルである。ただし、ハラムなものを使用して加工していないことが前提となる。加工する段階で酒や豚由来の油脂を使うとハラムになるし、醸造アルコールを添加した調味料を使用してもダメとする場合もある。コンタミが起こらないようノン・ハラル品と製造ラインを分ける必要もある。
ハラル認証の取得は簡単ではない。しかし、宗教に関わる話はややこしいからと正しい知識を得ずして忌避してしまうには、あまりにももったいない巨大な市場が広がっている。月に50万円そこそこの売り上げだったのが、認証をとったことで1億5000万円になったという話も実際にある。中国は国を挙げてハラル市場開拓に動きを加速させている。
「食品産業の技術発展とともにムスリムの人たちが神経を使うようになってきた」と話すのは、インドネシアの文化人類学専門の阿良田麻里子東京工業大学特任講師。
「しかし、東南アジアのムスリムには日本が好きな人も多く、品質が高くおいしい日本の食を求めている。まずはインバウンド(訪日ムスリム)の人にNON PORK(豚不使用)でもよいから商品の情報を開示するところから始めてもよいのでは」と言う。
また、昨年10月から日本とイスラム圏の間のビジネスのサポート活動を展開している一般社団法人ハラルジャパン協会の佐久間朋宏代表は「もっとハラルのことを積極的に知ってほしい。水産物自体がハラルなのにもったいない」と話す。
マルハニチロ食品は早くからハラルに取り組んでいるが、現在のところ、国内においては機能性食品用のコラーゲンやDHAのみ。また、ニッスイはタイ国でハラルを取得し、マレーシア向けに缶詰の販売を行っている。
国内の水産加工品の成功事例といえば、唐津・吉村商店の地場産アジを使った「鯵餡餃子」ぐらいだが、この先、ハラルにどう向き合うか次第では、商売の大きな転機となる可能性も、今の時点ならあるといえる。