Vol.55  「いつでも生サバ」蓄養物を〆た当日に

人気の生サバの寿司。一個税込み110円と安価

人気の生サバの寿司。一個税込み110円と安価

 ありふれた大衆魚の中でも、地域によって食べ方が大きく異なる魚がサバだ。東日本の常識ではにわかに信じ難いが、九州北部にはサバの生食文化が息づく。その味は多くの食通を魅了してきた。ただ、傷みやすい生サバを安全に味わうには、主産地の九州北部で獲れたてを食べるか、現地で丁寧に処理され運ばれてきた高鮮度品を、高級店で食べるくらいしかなかった。そんな貴重な生サバを、九州北部以外で毎日楽しめる店が石川・能登半島にある。網元直営の「廻転寿し 西海丸」を訪ねた。

「廻転寿し 西海丸」(石川県)

「廻転寿し 西海丸」。オープン直後に入店待ちで大混雑したことから「待合所」〓を設置

「廻転寿し 西海丸」。オープン直後に入店待ちで大混雑したことから「待合所」(右)を設置

 サバといえば、「サバの生き腐れ」の諺(ことわざ)があるように鮮度落ちが早く、ヒスタミン食中毒を引き起こす代表的な魚ともいわれている。東日本では、酢を用いて〆サバにしたり、焼き魚や煮魚にするなど火をしっかり通したりして、とにかく安全に気を使ってきた。関サバのような高鮮度品が手に入りやすい九州北部以外での生食はほとんど例がなかった。

 だが、今年2月に開店した繁盛店「西海丸」では、生サバの寿司を日常的に提供している。「西海丸」オーナーで、定置網2か統を運営する漁業会社(有)テイチ自身が供給する、人気ネタの定置網の朝獲れ魚を抑えて一番人気をキープしている。

富来漁港の活魚水槽内を回遊する蓄養サバ

富来漁港の活魚水槽内を回遊する蓄養サバ

 生食を可能にしているサバの鮮度は、地元の富来(とぎ)漁港にある蓄養イケスとの連携によって保たれている。サバは前年の秋口、地元のまき網船によって漁獲され、港内の蓄養イケスに放たれた。漁獲時の大きさは一尾200?250グラム。それを餌を与えながら肉質を変えつつ一尾300?350グラムまで育てた。

 毎日、蓄養イケスから30?40尾ずつ富来漁港の荷捌き場に設置された活魚水槽に移したあと、翌日の朝に活〆処理され、「西海丸」に納入される。次の日には残さず、当日にすべて使い切る。

 サバに鮮度落ちする暇も与えない。テイチの高岩権治代表取締役相談役は、「絶対に(腹に)当たらない」と断言する。「西海丸」で食事をする客には生サバ初体験の人も多く、「『本当にサバなの?』と驚かれる方も多い」という。実際〆サバに慣れた人は、〆に使う酢の味がせず、サバ自身のうま味がストレートに舌にくることに驚く。

 「西海丸」では、主な供給元の定置網が、海が荒れる冬季に網揚げすることを見越して、トラウトサーモンやツバス(ブリの幼魚)そしてサバなどを、富来漁港の蓄養イケスから供給を受ける体制をとってきた。出資者が、地元のJFいしかわ西海支所の組合員が大半のテイチだからこそできる仕組みだ。今回の生サバの大成功を受け、「蓄養は餌付けすることで肉質も自在に変えられる。アジやイワシ類などにも挑戦したい」(高岩相談役)と意気込んでいる。

生サバの魅力広げる

漁業会社直営ゆえに、ネタの鮮度は新鮮

漁業会社直営ゆえに、ネタの鮮度は新鮮

 回転寿司店「西海丸」の取り組みは、九州北部特有の食文化だったサバの生食を、それ以外の地域でも日常的に体験することを可能にしたものだ。

 蓄養イケスのバックアップという特殊な背景はあるが、一地方でしか楽しめなかったサバの生食の魅力を体験できる場所を増やし、魚好きを増やすことに貢献している。

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