Vol.73  魚は〆て何日後がおいしいか

鮮度の異なる3パターンのマダイ刺身。見た目には違いを判断しにくいが

鮮度の異なる3パターンのマダイ刺身。見た目には違いを判断しにくいが

 魚を活〆したあと、何日目がいちばんおいしいか。この問いに答えることは非常に難しい。科学的にうま味成分が最大値にあっても、「おいしい」とは歯応えや舌ざわり、香り、見た目ほか、食べる人の年齢や生活してきた土地の文化など、数多くの要素が影響するためだ。とはいえ、実際に鮮度が異なる同種の刺身を食べ比べると、どんな違いを感じるだろうか。

「利きタイ」で証明

五感を研ぎ澄ませて利きタイを行う生徒ら

五感を研ぎ澄ませて利きタイを行う生徒ら

 魚を活〆したあと、何日目がいちばんおいしいか。この問いに答えることは非常に難しい。科学的にうま味成分が最大値にあっても、「おいしい」とは歯応えや舌ざわり、香り、見た目ほか、食べる人の年齢や生活してきた土地の文化など、数多くの要素が影響するためだ。とはいえ、実際に鮮度が異なる同種の刺身を食べ比べると、どんな違いを感じるだろうか。

 東京・台東区の華調理製菓専門学校で昨年11月、同校の生徒を対象に鮮度が異なる魚を食べ比べ、身質の違いを比較・検討する実習が行われた。用いたのは愛媛・愛南町で養殖されたマダイで、活魚車で東京の大田市場へ輸送、同市場で脱血処理した。鮮度保持や品質管理など、条件は全く同じ。違うのは〆てからの時間だけだ。

 〆た当日と翌日、2日後の3つはどれも背側を刺身にした。見た目や香り、脂の乗り、食感、味から評価してみる。利き酒ならぬ「利きタイ」だ。

 鮮度の違いが味だけでなく、最適な調理法も明確に示せれば、提供する料理に付加価値が付く。鮮度に合った調理計画が立てられれば、廃棄ロスも軽減できるだろう。

反り返りが高鮮度の証し

上から順に〆た当日、翌日、2日後。鮮度のよい焼きマダイは身が反った

上から順に〆た当日、翌日、2日後。鮮度のよい焼きマダイは身が反った

 結論からいうと、約130人の料理人の卵が参加した試みは、それぞれに感想が異なった。食感一つとっても、〆たてが「硬い」と感じる人も「歯応えがある」と感じる人もいる。見た目の優劣もつけがたい。

 とはいえ、明確な違いもあった。加熱調理した場合だ。3つのマダイを焼くと、〆た当日の切身が大きく反り返った。ただし、焼くとふわふわと身がほぐれ、冷めても硬くなりにくい。刺身で感じた強い歯応えとは全く違う。

 愛南町の水産物マーケティング支援業務を活用した同授業で、講師を務めた同町水産課の兵頭重徳課長補佐は、この状態を地元で「ハゼる」と言い、「鮮度がよくおいしい証し」と話す。一般的に高鮮度品は刺身にして、やや古くなると加熱料理に用いるのが一尾まるごと上手に使うコツといわれるが、その発想では出会えない味だ。「地元では獲れたても塩焼きにする」(兵頭課長補佐)という。同校実習指導課の秋葉文夫課長は「日本料理では身が反ると見た目が悪いので、当日もののマダイは基本、使わない」と話す。だが、「お客さまにこの点を説明できれば、優良なコミュニケーションツールとなり、顧客獲得の強みになる」と続ける。

「おいしい」の理屈は

鮮度変化による魚の特徴を知ると、料理や会話にも幅が広がる

鮮度変化による魚の特徴を知ると、料理や会話にも幅が広がる

 諸説あるが、九州や四国西部の醤油が甘いのは、鮮度のよい魚をおいしく食べる策の一つといわれている。魚の筋肉中にエネルギー源として蓄えられるアデノシン三リン酸(ATP)が死後に分解されると、やがてうま味成分のイノシン酸になる。そのため、〆たてはイノシン酸が少ない。

 科学的にうま味成分がピークを迎えるまで、白身魚は特に時間がかかる。産地ゆえに高鮮度品が手に入りやすいこれら地域では、食感のよさを重視し、足りないうま味を醤油で補う理屈だ。甘い=うまいと感じた時代に、「この醤油が相性よい」と定着し、現在ももてはやされているという。

 それ以外にも魚の「おいしい」は、魚自体が餌や季節、環境で味を変えるし、漁獲後の処理や管理方法でも違いが生じる。うま味成分のピークも魚種で大きく異なる。ただ、冒頭にも記した通り「おいしさ」を測る物差しは一つではない。無責任なようだが、やはり好みの違いに依存する部分が大きく、「〆て何日目がいちばんか」の問いに、正解がないことが、今回の授業で改めて証明された。

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