Vol.107  魚にプラス、醤油の力再発見

醤油の違いで見た目も味わいも異なる煮アナゴ

 魚料理、特に刺身や寿司をおいしく食べるには、醤油の存在が不可欠だ。ただ、魚の種類や産地、季節などに持論を押し通す人も、醤油についての一家言とは、お気に入りのメーカーぐらいだろう。しかし、魚に合う醤油の種類を追い求めると、既成概念が覆った。

魚の味には“続き”がある

 刺身や寿司を食べる際の醤油とは、多くが濃口醤油を採用しており、刺身醤油(定義はないが再仕込醤油など)も好まれる。東京都文京区の寿司店「酢飯屋」の店主・岡田大介さんと、醤油専門店「職人醤油」(本社・群馬県前橋市)を運営する高橋万太郎代表は、「寿司に最適な種類の醤油は、ネタで異なるのか」という発想から、挑戦企画「一魚一醤(いちぎょいっしょう)」を共催している。煮アナゴとの相性を探る回を取材した。

寿司を作った岡田店主(左)と醤油を監修した高橋代表

 参加した11人は、醤油の色が薄い「白醤油」、素材の持ち味を生かす「淡口(うすくち)醤油」、甘みをつけた「甘口醤油」、万能タイプの「濃口醤油」、醤油で再度仕込む「再仕込(さいしこみ)醤油」、少ない仕込水でうま味を凝縮させた「溜(たまり)醤油」で作られた6種類の煮アナゴを、にぎり寿司にして食べ比べた。

 アナゴを煮る時間も砂糖の量も同じ(甘口醤油はそれ自体が甘いため、砂糖は不使用)。酢飯と握り手の違いもない。だが、とても同じアナゴとは思えない、違うネタの寿司を食べていると錯覚するほど、6つの味は顕著に異なっていた。
 味は人により好みがあるため、代表して岡田さんの所見を引用したい。(表参照)

濃口で十分においしかったのだが

6種の醤油で煮た寿司を食べ比べる

 寿司を食べた時、多くの人が「あれ?」と首を傾げた。実は寿司を食べる前に6種の醤油単体の味を確認しており、その際には濃厚なうま味の強い再仕込醤油や溜醤油を推す人が多かった。ところが、煮アナゴでは白醤油や淡口醤油に票が入り、当初の感じ方と正反対の結果になったのだ。

 淡口醤油は単体で塩辛さを感じやすいが、素材の味を生かす京料理に多用される。高橋代表は「1丁400円以上の高級豆腐に合う醤油は、“スイカに塩”のように、淡口醤油の塩味が大豆の甘みを引き立て、逆に100円以下の豆腐は、うま味が凝縮された溜醤油で“一体感としておいしい”と感じる人が多い」との事例をもち出した。

 確かに淡口醤油の煮アナゴには、醤油や砂糖由来でない甘さがあり、そこには輪郭があるかのようにくっきりと、魚の味を感じやすかった。

 加えて高橋代表は「アナゴの質がよく、一流の職人の岡田さんの手にかかったからこの結果が出た」という。廉価な店ならば「醤油の味も含めた一体感でうまい」と、溜醤油が好まれる可能性もあるとの見方を示した。

 これまで濃口醤油でアナゴを煮ていた岡田さんにも、結果は予想外だった。「今のままで十分においしかった」のだが、実際に食べ比べると、その先があったことに気づく。岡田さんはこの後、煮アナゴの醤油を修業時代から使い続けていた濃口から淡口に変更。新たな出会いを喜んでいた。

アナゴ以外はどうだろう?

回転寿司のサーモンにはどんな醤油?

 「一魚一醤」では過去に、前述の6種類の醤油で白身魚と赤身魚の寿司の食べ比べを行った。塩やレモンでも食べる白身は淡口醤油が合い、味が濃く脂もある赤身には存在感の強い溜醤油を多くの人が推した。その逆を試すと、白身は溜醤油の味に染まり、淡口醤油で食べる赤身からは生臭さや血(鉄)の味を感じた。食材によって醤油の好みが逆転したのだ。

 高橋代表は回転寿司でネタをサーモンに絞り、醤油の違いで食べ比べた。すると、通常の寿司では再仕込醤油がいちばん合った。だが、スライスしたタマネギが乗ると淡口醤油でバランスよく味わえ、炙(あぶ)りマヨネーズタイプは溜醤油に分があったという。

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