Vol.81  熟成魚、福井・美浜の味再現

熟成魚の刺身。(右)からサゴシ、カンパチ、スズキ

熟成魚の刺身。(右)からサゴシ、カンパチ、スズキ

 魚好きのあなたが「魚は鮮度のいい状態で食べるよりも、じっくりと寝かせてから食べた方がうまい」という主張を聞いたら、ちょっと驚くのではないか。魚食の世界では長らく、高鮮度ほど魚はうまいとされてきた。今でこそ1~2晩寝かせた方がいい魚種があるのが分かってきたが、3日~2週間寝かせてから食べる「熟成魚」なる文化が日本にはある。東京で「熟成魚」の刺身が食べられる店を訪ねた。

“恒温恒湿”で増すうま味

「熟成魚場 福井県美浜町」の外観(上)と店内の様子(下)

「熟成魚場 福井県美浜町」の外観(上)と店内の様子(下)

 東京メトロ銀座駅に直結する東京日本橋タワー地下1階の「熟成魚場 福井県美浜町 日本橋店」は、「ご当地居酒屋」のパイオニアである㈱ファンファンクション(合掌智宏社長)が、2年前から運営している居酒屋だ。名物は「新鮮魚と熟成魚の刺身盛り」(税別1500円)。福井県美浜町の漁師の常識だった「その日に捌いて食べるよりも、寝かせて食べるとうまい」という伝承を受け継いだ看板メニューである。

 数種類の鮮魚の刺身とともに器に盛られて出てきたのは、サゴシとカンパチとスズキの「熟成魚」。いずれも美浜町内の日向(ひるが)地区の定置網で漁獲され、現地で3日~2週間かけて熟成された地魚という。

 濃厚な香りとかすかにあめ色がかった身色は、明らかに鮮魚のそれとは違う。口に入れるとねっとりした歯触り。密度を濃くしたうま味が食べた者の舌を喜ばせてくれる。熟成でタンパク質が分解され、うま味のもとのアミノ酸が増しているという理屈は分かるが、一般的な居酒屋で出せるほど安定した状態を、どのように作り出しているのか。

漁港そばに加工場

美浜町の日向漁港そばにある新加工場

美浜町の日向漁港そばにある新加工場

 美浜町日向漁港に隣接した場所に、東京へ「熟成魚」を送り出している生産拠点はある。開店当初は別の小規模施設で行っていたが、木造平屋建て140平方メートルの専用加工場が今年4月に完成した。熟成庫と呼ばれる機器5台を運用している。

 熟成庫はその内部を、一定の温度、一定の湿度に保つことができる。この“恒温恒湿”が、安定して「熟成魚」を生み出している。

 「現在も情報提供を受けている美浜町とJF美浜町漁協から初めてラブコールがあったのは、2014年だったと思います」と話すのは、ファンファンクションで広報を務めている熊本信吾氏。出店コンセプトの検討や食材探しのため、合掌社長らが現地を訪ねた時に「熟成魚」文化に行き当たったのだという。

 「地元のご年配の方の一部に『魚は寝かせて食べる方がうまい』と言っている方がいると聞きつけて、今の店の目玉となっている熟成にたどり着いたんです。これなら東京でも十分にいけると」。

 とはいえ、メニュー化には1年かかった。飲食店で出す以上は失敗したものは出せないし、菌数も気にしなければいけない。合掌社長自ら何度も実食して試した。熟成が行き過ぎて腐った魚を食べかけたこともあった。

 1年かけて見いだした条件が“恒温恒湿”だった。しかも、熟成の進み具合は、魚種やサイズによって変わってくるため、熟成させる時間は微妙に調節を行っている。

 基本的に美浜町の魚すべてで試しているが「熟成魚」に適した魚も分かってきた。「マグロは当然ですが、やはり白身魚ですね。イカ、タコ、アナゴも好評でした」と傾向について話す。

 ただ、一方で「熟成魚」を家で再現するのはやめた方がいいと注意を促す。「冷蔵庫は温度にブレもあるし開け閉めもあって条件が保てません。一般家庭で『熟成魚』と同じことをやろうというのはやめた方がいいかもしれないですね」(熊本氏)。

美浜町も全面支援

 「熟成魚場 福井県美浜町」を支援している美浜町役場のみはまブランド開拓課では17年度、発酵熟成ブランド推進事業を展開中。日向の加工場で生産した「熟成魚」の一部を地元の飲食店や旅館へ卸してもらい、地元の名物にできないかとチャレンジしている。

 渡辺強課長補佐は「『熟成魚』の価値を高めたいと思います。今年はPR用ツールで知名度を高め、全国に情報発信していくつもりです」と意気込んでいる。

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