Vol.45  ライブ感で増幅、目・耳・鼻で味わう魚

人気の魚串「しおぶり」を囲炉裏で焼き上げる

 魚を味わうのは何も舌だけじゃない? 外食や中食産業で、魚を目の前で調理して即座に提供する“ライブ感”注目を浴びている。都市部に広がる魚の調理離れ。しかし、“ライブ感”ある現場なら、プロの手にせよ、自分の手にせよ、調理の間近に居合わせ、目や耳や鼻でも魚を堪能できる。見る者の心をわしづかみし、今から口にする魚を何倍もおいしくする。

調理の場 ありのままに

板前らの手付きを興味深そうに見つめる外国人客

 都心になお豊かな緑を残す東京・港区愛宕山に店を構える「魚串 然(ぜん)」は、魚専門の炉端焼き専門店だ。早朝に築地市場で仕入れた魚介類と、独自ルートで北陸方面から調達した魚介類を、カウンター席奥の調理場中央にしつらえた、囲炉裏(いろり)の炭火で焼いて出す。

 店名に「魚串」とある通り、看板メニューは魚を鉄串に通した串物だろう。酒井慶太店長は、「どんな魚でも串になるし、魚体を余すところなく使えるので」とその理由を話す。「一尾丸ごと提供する焼き魚と比べ、少しずつたくさんの種類を楽しめる」のも、人気の秘訣(けつ)だ。

 カウンター席の客が串を注文すると早速、焼きの作業に取り掛かる。調理場に立つのは、酒井店長が信頼を寄せている3人の板前だ。

 囲炉裏の上に串をセットし、手際よく焼き上げていく。客の目の前で、魚はじわじわ焼き色を付ける。焼けていく時の音と香り。調理が困難とされる魚だが、プロの手にかかれば「失敗がない」。最初から最後まで調理に立ち会う“ライブ感”が、食欲をいやが上にも刺激する。

サンマも一本丸ごと焼く

 串物の味付けは塩が基本。照り焼きに使うタレや、外国人の来店も多いため、バジルソースやトマトソースもある。

 囲炉裏で焼くのは魚串だけではない。新潟から仕入れたノドグロの一夜干の焼き魚をはじめ、旬のサンマの串焼きも、「魚串 然」の秋の人気メニューの一つだ。

 調理する現場を見せる“ライブ感”をコンセプトに据えているといっても、調理場を意識して演出したり、板前に俳優のように振る舞ってもらったりはしていない。調理の場に居合わせ、注文した魚が目の前で調理され、「その現物が自分の卓に出てくる」事実に意味がある。

衰退する台所に代えて

 炉端焼き自体の歴史は古く、目新しい外食業態というわけではない。しかし、都市部の集合住宅で、煙、臭い、そして生ゴミが敬遠され、どんどん魚を調理する機会が奪われていく中、味覚以外を使って魚を味わう時間が少なくなっている。

2代目として9年前から店を切り盛りする酒井さん

 肉と比べて魚は身が崩れやすい。鍋物などの煮る調理ならともかく焼く調理は難しく、純粋な焼き肉店のような業態が成立しにくい食材ではある。ただ、そこは「魚串 然」のように調理はプロに任せ、調理場をありのままに見せる手段もある。近年、急増するカキ小屋のように、失敗しづらい食材なら、客にすべて委ねてもいい。

 今後、都市部の住宅から消えつつある魚調理ができる台所に代わるような、“ライブ感”ある外食や中食の店がもっと増えることが、魚食の衰退に歯止めをかける糸口になるかもしれない。

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