Vol.101  ひろがる「ホヤ食」

宮城県で養殖されたホヤ

 「産地で食べてこそ、おいしい海産物」の代表格に「ホヤ」がある。ただ近年は、鮮度を重視した加工・冷凍技術で、遠隔地でも産地の味を楽しめるようになってきた。まだまだホヤを知らない消費者は多いが、だからこそ提案次第で消費動向が様変わりする可能性の高い食材でもある。

鮮度の壁を加工で打破

鮮度保持マニュアルで臭みを激減させた冷凍むき身ホヤ

 ホヤは甘み・苦み・酸味・塩味・うま味と、味の5要素すべてをもつ。唯一無二の存在だが、多くの人にとってホヤは、今もなお“未知の食材”のままだ。理由は足の早さにある。収穫後は時間の経過とともに、自己消化酵素の働きで特有の風味が強調されやすい。これが「ホヤは臭い」という一般的なイメージとして定着してしまった。

 だが、よりホヤを理解した加工で、消費地を選ばず、おいしく食べられる時間が劇的に伸びた加工品が増えている。

 水揚げされたホヤは、冷海水で生きたまま加工場へ運ばれ、素早く殻を外し、肝膵(すい)臓と糞(ふん)を除いてむき身にすることで、ホヤ臭さは激減。空気に触れると黒くなりやすいが、内臓除去後すぐに真空凍結することで、時間経過による褐変や臭みの発生を抑えた。近年、確立されたマニュアルだ。製造する加工業者は「都内で提供されるホヤの方が、産地の殻付き物より新鮮かもしれない」と胸を張る。

熱を加えて引き出す

和食・洋食・中華さまざまな料理が開発されている

 高鮮度なホヤを扱える環境が広がると、定番の「酢の物」以外の料理が増えてきた。天ぷらやフライ、炊き込みご飯といった和食だけでなく、ホヤのだしをスープにしたラーメン、スペイン料理のアヒージョ、塩焼きそば「ホヤキソバ」など。

 エビの殻からだしを取るフランスのスープ・ビスクの調理法を応用して、未利用のホヤ殻を使ったビスクが、東京・恵比寿の老舗ビストロ「ダルブル」で開発された。

 カキが生食だけでないことと同様に、加熱調理の広がりで眠っていた魅力が引き出されている。

口の中で海を再現

「海かおるホイスターソース」㊧と姉妹品の「気仙沼ほや醤油」

 加工品も増えている。クセのない「蒸しほや」や、常温保存できる「乾燥ほや」、相性のよい「ほやチーズ」などは、土産物としても喜ばれる。

 宮城県の気仙沼水産資源活用研究会・kesemoが作る調味料「海かおるホイスターソース」は、オイスターソースのホヤ版といえば分かりやすい。わずかに残るホヤの苦みや渋みも、ソース加工の過程でうま味や香りに変え、低温殺菌でその変化を封じ込める。

 ある展示会で試食した、ホヤを知らない海外バイヤーは「口の中に海が広がる」と称賛し、その場で「チーズをたっぷり使ったリゾットや、卵料理に合う」と構想を広げ始めたそうだ。

 ビタミンや鉄、亜鉛などの健康成分が、バランスよく含まれているのもホヤの特徴。認知症対策に役立つと期待されているプラズマローゲンも、ホヤに抜きんでて多いことが分かっている。健康食品製造大手の三生医薬は、ホヤ由来で消費者庁へ機能性表示食品の申請を行っており、「7月後半~8月には認定される見込み」(担当者)と話す

過去は忘れ今を味わう

活ホヤの刺身は浜による味の違いも楽しめる

 2010年に全国の84%(約8600トン)を生産していた宮城県の養殖ホヤは、東日本大震災後に最大の出荷先だった韓国が輸入全面禁止を宣言、今年4月には世界貿易機関(WTO)で敗訴し、早期の韓国輸出再開を望めない状況が続く。18年の全国シェアは46%(約5500トン)まで落ち込み、海外輸出依存型から国内消費拡大型への転換を迫られている。

 だが、国内のホヤ消費量(生産量から輸出と廃棄処分数量を引いた値)は、震災前の10年に2996㌧だったが、18年は7685トンまで増加。ホヤの認知度向上を目指す「ほやほや学会」(田山圭子会長)のような応援団も登場している。

 ホヤの旬は夏。6~8月中旬が特においしい。食べず嫌いの人も、「昔ひどい目にあった」と印象が悪いままの人も、今のホヤを食べてほしい。認識が変わるはずだ。

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