Vol.39  その“旬”は本物?/春カキで実証

盛屋水産の完熟牡蠣(4月)。大粒で、蒸してもらったが身は縮まらず、パンパンに膨れ上がる

 商品の謳(うた)い文句として、あるいは消費者の購買基準として、“旬”という言葉ほど、多様に使われている語句はない。ただ、旬の定義に統一見解があるかといえば、疑わしい。おいしい時期を指すのか、多く獲れる時期を指すのか。

 同じ魚介種でも地域や年により変動は大きく、「この魚は○月」とは言いきれない。そこへ商品がもつイメージや、古くからの慣習も加味されれば、旬の言葉が先行することで、かえって味が落ちるものを高く買う、諸刃の剣となりかねない。

 今月の魚食にっぽんは、マガキを例に旬を考えてみた。

マガキは冬よりもおいしい?

かまいし桜牡蠣を生産する佐々木健一さん(左)と佐々新一さん

 マガキの旬は、俗に「Rのつく月」といわれる。9月(September)から4月(April)を指し、中でも印象が強いのは、鍋物需要の高い10月から12月か。事実、「牡蠣(カキ)の日」は11月23日に制定されている。
 ただ近年は、夏の高水温時期が長期化しており、卵の抜けに影響し、身入り開始時期が後倒しに。秋から冬にかけ、十分な大きさのカキが揃いにくいという。

 生産者はカキの旬をいつと考えているのか。岩手・JF釜石東部漁協カキ部会の佐々木健一部長は、「東京が旬でないといったら終わり」と苦言を呈すも、「本当は3?4月がいちばん」という。宮城・気仙沼市唐桑の盛屋水産の菅野一代専務も、「年末まではお子さま。立派に育った春に食べてもらいたい」と話す。

 両者ともに推す春のカキは、殻を開けると身がパンパンに膨れているのが分かる。水っぽさがなく濃厚で、加熱しても縮みにくい。

 前年末出荷分と比較すれば3か月程度の差だが、産卵直前ということで、海の栄養分が確実に蓄えられている。広島大学の研究チームは、この時期にうま味成分のグリコーゲンとアミノ酸の蓄積量が最大になると、突き止めている。

桜牡蠣・完熟牡蠣

フィッシュロックバンド漁港の最新曲「かまいし桜牡蠣」は、春カキ全体の応援歌でもある

 だが、カキ≒冬のイメージを覆すのは難しい。それでも春カキを捨てきれない佐々木部長らは、ちょうど桜の咲く時期に当たる一粒カキに、「かまいし桜牡蠣」と名付け、販売を開始した。殺菌処理を施した生食用の殻付き春カキは、もの珍しさだけでなく味の点でも評価され、都内の飲食店を中心に、扱いを増やしている。

 盛屋水産は地元のフカヒレ専門店・石渡商店と手を組んだ。石渡久師専務は春のカキから熟しきる直前の果物を連想し、「完熟牡蠣」と名付け、エキス成分ではなく、カキのすべてを使い切るオイスターソースを開発。

盛屋水産の春カキを使った「気仙沼完熟牡蠣のオイスターソース」(石渡商店)

 全国水産加工業協同組合連合会が主催する「全国水産加工品総合品質審査会」で、最も名誉ある農林水産大臣賞を、販売したての昨年、いきなり獲得した。「営業をストップしても注文には応じきれなかった」(石渡専務)ほどの人気で、盛屋水産への原料発注量を、今年は3倍に増やしたそうだ。

 走りの時期に食べ急いだ消費者には、飽きている感もあるだろう。しかし、おいしいカキを求めるならば、生産者が太鼓判を押す「春」という選択肢も知らなくてはもったいない。3か月の時期をずらすだけで、消費者だけでなく、加工流通も新たな発見があるはず。春カキ市場は、まだまだ開拓の余地が大きい。

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