[5]90日は簡単ではなかった

2013年3月19日

 5月に甫母に来て1月までの出漁日数が90日を超えた。この90日は、水協法に定める正組合員資格の下限日数で、また、漁業法の海区漁業調整委員会の委員の選挙権等の日数でもある。
 それがどうした、そんなもの訳ないだろう、1年のうち4日に1日も漁に出ないで漁師といえるか。これが水産庁で指導室長として平成19年の水協法改正を担当していたころの認識であった。その改正は漁業補償金がらみで漁業実態のない組合員の存在が問題になっていたことを受け、資格審査の適正化を図るものであった。

 改正にあたり漁協系統から多くの意見が上がってきた。その中に真面目な専業漁業者でも日数を満たすのが難しくなりつつあるとあったが、自分がその日数を満たす側になって初めてその意味が分かってきた。地元の祭り後の宴会で、私が「ヤッター、90日達成」的にはしゃいでいると、高齢の組合員の方が「だんだん難しくなってきたのう」とぽつり。冬季の出漁が高齢者にとって厳しくなってきているのである。

 エビ漁は10月から4月まであるが、満月の前後とシケで出漁できない日も含むと5か月間、ほぼ毎日出漁しなければ90日は達成できない。しかし、自分が出ているのでよく分かるが、零度以下にもなる冬場の出漁は、高齢者の健康を考えればとても危険。夏場に出漁といっても、夏場の魚は一般に値段が安く、その一方で燃油が高くなっていることから、比較的値段のよいカツオなどの漁場が近場に形成されればよいが、昔のように遠くまで高い油を消費し出漁日数を増やしにいくわけにもいかない。高齢でも小型定置網を営んでいる組合員は夏場も漁に出られているが、漁船漁業の高齢者には厳しい状況が続く。

 漁協の定款が改正され資格審査委員会が設置されているのを現場で見ると、それまでの「指導通達」と違う法律の力というものを感じる。今後ともエセ組合員の排除は断固やらなければならないが一方で難しい現実もある。法律改正の当事者であるだけに複雑な感情を抱かざるを得ない90日である。