[14]漁船の病院

2013年8月8日

 投網を終え帰路に着いた時、突然エンジンの異常を知らせる警告音が鳴り始め、煙突から黒い煙が…。回転をスローにすると止まったので、何とか港に戻れた。早速、鉄工所(当地では機関関係の修理業者をこう呼ぶ)に連絡したが、来るのは3日後という。盛漁期でもあったので、その後も漁に出たが、運悪く遠い漁場の順番に当たっており、いつもの2倍以上の時間がかかったうえ、いつエンジンが止まるかとヒヤヒヤであった。

 修理が終わり、以前のように回転を上げて漁場に向かうと、エンジンルームから白い煙がもうもうと出始めた。再び来てもらったところ、オイル関係のトラブルだった。ようやく調子もよくなって安心していると、今度は船が傾き始め、それも日々ひどくなる。また来てもらったら、何と2回目の修理の時に船の両サイドにある燃料タンクの一方のバルブを開け忘れたための単純ミスと分かった。

 ついに片岡さんの怒りが爆発か!と思ったら、ぐっとこらえている。どうしたのだろう、いつもと違う。その訳は以前、厳しく叱責したところ呼んでも来なくなり、他に業者がいないので大変困ったから。エビがいちばん獲れる10月に、鉄工所に部品がなかなか着かないため、1週間も休んだ漁船がいた。みんなが稼いでいる中、1人ぽつんと泊まる漁船を見るに忍びなかった。何でも翌日に届く宅配便の時代にあっても、古いエンジンの部品はそう簡単に手に入らないらしい。

 しかし、鉄工所ばかりを責められない。漁船も減れば鉄工所も減る。彼らも生きるために必死で、最近は陸上の仕事も始めた。昔のように「すぐ行きます」という訳にはいかない。漁船も漁業者と同じように高齢化が進むが、人間には病院がある。過疎化も進む地方において、地域医療体制の確保は、自治体の最大の責務となっている。漁師と漁船は一心同体のはず。その一方の漁船の病院が全くの民間任せでは、漁船がかわいそうではないか。漁業インフラ整備の1つとして、漁船の病院も検討対象に加えるべきではなかろうか。