2014年8月1日
JF漁協系統ブランド、環境にやさしい石けん「わかしお」の使用推進は、JF全国女性連による海環境保護の草の根活動だ。
近年、下水関連施設に対する行き過ぎた安心感、一見魅力的な合成洗剤の氾濫(はんらん)で、石けんへの意識は低下していることが、海に異変を引き起こしている。
「わかしお」取り組み県の愛媛を訪ね、海環境と普及活動の今をまとめた。
JF愛媛県漁協女性部連合会(愛媛県女性連)は25日の総会後、「わかしお」の製造元であるヱスケー石鹸営業の鈴木浩二氏を講師に、「わかしお石けん講習会」を開いた。石けんに惚れ込んで転職したという熱い経歴をもつ鈴木氏が、石けんの歴史や仕組み、「わかしお」製品を活用するコツなどを語った。
石けんと合成洗剤は、汚れを落とすという役目では同じでも、環境や人体に与える影響は全く違う。鈴木氏は、「石けんは分解しやすく、水に薄まると石けんカスになって、水中生物や小魚のエサにもなる。脂を乗せるため、豚の飼料に使われるくらいだ」と紹介した。
一方、戦争の油脂不足の中で生み出された合成洗剤は、無理な圧力などをかけて製造するため、自然の環境中では容易に分解しにくい。「長い間環境中に留まり、少量でも周りの油分の分解を続ける」と解説した。
この性質が人や魚に悪影響を及ぼす。「人肌に触れ続けると、皮膚障害につながるほか、水環境の中では、薄い濃度でもプランクトンの成長を阻害する」。プランクトンが減れば、エサが減って小魚が減少し、小魚が減れば大型の魚もいなくなる。合成洗剤は環境中に放出されると、少量でも豊かな海に異変を起こす。
愛媛県下でも、近年、下水道や浄化槽の整備が進んだ。これが「下水が整備されたから大丈夫」という意識を生んでいる。
鈴木氏は、「下水道も浄化槽も、分解の仕組みはバクテリアなどの生物に頼っている。合成洗剤が大量に含まれた下水は、このバクテリアを殺してしまう」と訴える。
浄化機能が低下した結果、河川などに放出される浄化済みの下水には、合成洗剤の成分が残ったままになってしまう。わずかであっても、水環境に深刻な損害を与える。それを防ぐには、「わかしお」をはじめとした石けんの使用が欠かせない。
鈴木氏は講習会の中で質問に答える形で、「わかしお」の賢い使い方の数々も併せて伝えた。
特に好評だった使い方の一つは「わかしお」漂白剤の効能についてだ。
現在、合成洗剤のほぼ100%が、化学物質の蛍光増白剤を入れて服の生地を光らせ、洗い上がりを一見、白く?見せて?いる。決して汚れの落ちがよいわけではない。
これに対して「わかしお」は、洗浄力の点では優れているが、生地を「白く」着色する成分はないため、服は徐々に繊維本来の色に戻る。それを汚れが落ちていないと誤解されている。また、上手に洗えていないと?黄ばみ?として表れ、一部の利用者が敬遠する理由の一つになっていた。
鈴木氏は、「『わかしお』の漂白剤を用いてしばしば漬けおき洗いすることで、?黄ばみ?を抑制できる」と紹介。市販の塩素系漂白剤と違って、人体に有害な塩素ではなく酸素を放出し分解していくため、環境や人にもやさしい点を付け加えて強調していた。
また、「洗濯用粉石けんよりも使いやすいが、水が主成分になるので洗浄力がどうしても劣る液体せっけんは、『わかしお』漂白剤と併用で使うと洗浄力がアップする」という裏ワザ的なテクニックも紹介していた。
また、場合によっては合成洗剤より、人や環境に毒性の強い柔軟剤を洗濯に併用し、「わかしお」の効果を無にしてしまうことが、「わかしお」愛好者に多いことに注意を促した。
鈴木氏は、「子供が使う肌着やバスタオルに、柔軟剤を使用することは厳禁」と述べ、「『わかしお』シリーズのクエン酸を、柔軟剤の代わりに洗濯機の投入口から加えるだけで、仕上がり具合、匂いが抑えられる」とアドバイスをしていた。
25日の勉強会を終えた後、愛媛女性連の喜田ヒサ子会長(今治ブロック)と、山内満子副会長(宇和島ブロック)の幹部2人に、愛媛の「わかしお」について聞いた。
◆愛媛県は全国でみると3位ですが、使用量の減少は続いています。
喜田会長/40年近い活動の中で、マンネリ化している部分はあると思います。合成洗剤に比べて、昔は水への溶けやすさなどの面で、使い勝手が悪く敬遠された時期もありました。今は改良されましたが、漁業者の高齢者や会員の減少の方が影響大きく、利用者は回復するどころか減ってきています。
ただ、「わかしお」40年は大きなことですから、女性連の活動の重要事項に指定されたら、再度がんばりたいですね。
山内副会長/ (養殖が盛んな)宇和島ブロックでは、農協と一緒に注文を取っているので、農協側の石けんと合算すると、まだ使用している割合は多いと思いますよ。
地元の小学校では、魚に対する影響実験を、歯磨き粉を使用してやっています。市販の歯磨き粉は、実は子供用の方が魚に対する毒性が強いんです。子供たちの前でみせるとき、合成洗剤といっても反応は鈍いですが、(合成洗剤と同成分の)歯磨き粉だと、「家に帰ったら(親に)言うよ」と、素直に実感してくれます。
◆きょうの講演では、浄化槽などで合成洗剤は処理しきれないと強調されていました。
山内副会長/皆さんに知ってほしい点ですね。
喜田会長/私の近くの海でも、魚の獲る量が減ったり、種類が変わったりしています。タチウオはその最たるものです。関サバと同じ海域で獲っていたサバも今年はさっぱりです。温暖化や海流の変化もあるでしょうが、環境問題もそこに絡んでくるとしたら、「わかしお」は重要なポイントですね。女性部も大いにやりたいと思います。
◆今年もですが、宇和海の赤潮被害がここ2年話題になっています。
山内副会長/各地に浄化槽ができ、逆に安心して合成洗剤を使い出す人が増えた頃と重なっているような気がしますね。
近年復活してきた赤潮は、かつての赤潮と違って毒性が強く、魚の大量死を招いています。「わかしお」の使用減と直結するかは厳密には不明ですが、大変な問題です。
◆アレルギー体質の方から、「わかしお」は最近注目されています。
喜田会長/漁業者でなくても、アレルギー体質の子供を持ったお母さん方からの注文は、地元からも出てきていますね。
山内副会長/合成洗剤に触れる機会ができてから、2、3世代が経ち、生まれた赤ちゃんの時からアレルギーをもっている子供が増えています。近い将来、合成洗剤に対する危機意識は、若い世代から高まってくるかもしれません。
◆愛媛県下での「わかしお」普及推進に、今後何をしていきますか。
山内副会長/使用法が分からないから、「わかしお」の購入に踏み切れないという若い世代が多くいます。
勉強会でも、洗濯や台所や風呂場の掃除のとき、「わかしお」の漂白剤やクエン酸で、市販の合成洗剤よりも、安全で簡単にキレイにする方法をたくさん教えていただきました。効果的な使い方として広めたいですね。
喜田会長/天然石けん「わかしお」と同じく、人と環境に優しいコンセプトで作られた「エコーレア」の利用実績も、もっと増やしたいです。
一つずつでも買ってみて、実際に使用した効果を県下の女性部員に口コミなどで広げ、運動を盛り上げていきます。
漁協系統ブランドの天然石けん「わかしお」が、来年度で誕生から40年を迎える。節目となる年を控え、ピーク時の4分の1に落ち込んでいる「わかしお」の普及率をもう一度引き上げようと、JF全漁連資材課は来年度にかけて、製造元であるヱスケー石鹸と連携し、女性連の各種イベントでの講習や研修の受け入れを強化する。
天然石けん「わかしお」は、?浜の母さん?の団体・JF全国女性連(旧・全漁婦連)が主導して始めた活動「有害合成洗剤追放運動」の必須のアイテムとして、豊富で多様な魚を育くむ海環境の保全を支えてきた。
その後も「天然石けん使用推進運動」に名前を変えて活動は展開されてきたが、女性部員の減少に加えて「世代交代が進む中、新しく漁業に定着した世代で『わかしお』使用率がうまく上げられなかった」(JF全漁連購買事業部資材課の上野新治課長)。運動の厚みはどんどん薄れてきた。
JF全漁連資材課とヱスケー石鹸では今年度、「わかしお」を使用した経験のない層に、1個でもいいから使ってもらおうと、「石けんとは何なのか」の基本まで立ち戻った、普及・啓発活動の強化を始めた。40周年の来年度に向け、今年度は土台づくりに徹する。
上野課長は、「『天然石けん使用推進運動』は誕生から今まで、女性連が主役であることは変わっていない。女性連が守ってきた活動として取り組む中、講習・研修が必要なら、全国どこでも積極的に説明にうかがいたい」と意気込んでいる。
全国を見渡すと、「わかしお」の使用率が高い都道府県の上位は、ワカメ養殖などが盛んな岩手県、ノリ養殖が盛んな佐賀県有明海、ブリ類養殖が盛んな愛媛県など、主要な養殖県に限られている。漁船漁業主体の地域を中心に、至近の海になじみのない人はどうしても意識が低くなって、普及活動の決め手を欠く。
しかし、上野課長は、「海に流れ込む河川を通じて森や山ともつながっている意識が高まっている」ことに着目。40周年を契機に、海になじみのない地域にも「わかしお」の使用拡大を呼び掛ける方向で検討中。加えて、重要さを増す観光資源の保全のために、景勝地やリゾート関連産業に「わかしお」活用の輪を広げていくことにも、目線を向けている。
石けんや他の洗剤の洗浄主成分は界面活性剤です。界面活性剤は、油とよくなじむ部分(親油基)と、水とよくなじむ部分(親水基)の両方を持っています。
まず親油基の部分が油や皮脂などの汚れと結びつきます。そのあと親水基の部分が水と結びついて、その汚れを水の中に引き離します。これが汚れを落とす仕組みです。
石けんは一定の割合以上に薄まれば洗浄力(界面活性剤)がなくなります。しかし合成界面活性剤の多くは、どんなに薄めても界面活性作用が残ります。
だから肌や環境、水生生物に影響を及ぼし続ける可能性があるのです。
石けんは分解されやすい洗浄剤で、水で薄まると石けんカスとなり、水中の微生物や魚のエサになります。
しかし合成洗剤は分解されにくいため、環境に影響を与え、一度壊れてしまった環境は、なかなか元には戻りません。
石けんは、天然油脂からつくられていて、濃度が薄まると洗浄力がなくなります。この性質から、体への影響が少ないため、体に優しいのです。
合成洗剤は、合成シャンプー、リンス、ハミガキなどに含まれる合成洗剤でアレルギー反応をおこすことがあります。
合成洗剤には衣類を白く染めるための「蛍光増白剤」が入っています。それで汚れ落ちがよいように感じるのです。
この「蛍光増白剤」は分解されにくく、海の泥の中で検出されることがあります。
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