水経セミナー

[14]離婚したくなければ漁師になれ!?

2014年5月15日

 今回の表題は、どこかのスポーツ新聞のように、断定・強調に疑問符がついた訳の分からないものであるが、これが私の率直な見解である。実は、熊野でも鳥羽でも、限られた漁村の範囲であったが、離婚した漁師の話を全く聞かなかった。なんと職業別離婚率なる統計が存在し、女性からみたそれが7%と最も低いのが農林水産業であった。3組に1組が離婚する時代といわれる中、明らかに低い。夫婦一体となって操業する沿岸漁船に、約2年間同乗した経験からして、やはりそうかと、この結果には完全に納得する。

 私は、いつもそばでみていて、夫婦で働くというのは本当に大変だなーと感じる。サラリーマンであれば、職場で何かあっても、家庭ではそれを忘れられ、また、その逆の場合でも、逃げ道が残されている。しかし、漁師の夫婦にはそれがない。船上での夫婦関係を詳しく書くと、守秘義務違反となるので差し控えるが、ちょっとしたことから、やがて激しいやりとりが始まり、第3者の私に、双方から「自分が正しい」と同意を求められ、困惑することもある。

 夫婦関係が最も険悪になるのは、やはりシケの時が多い。船は揺れるし、海底も荒れるため、網が絡まったり、ゴミが揚がってきたりと、作業が大変危険で遅れがちになる。そうすると、ご主人が普段と違う大声で何か言う、奥さんは「そんなこと分かっているわよ」とばかり、これまた大声で言い返す。間に挟まれた私は、ただオロオロするばかり。これは喧嘩というより、板子1枚下は地獄の中で、ともに必死に働いているゆえの厳しいやりとりでもある。

 時々うらやましく思うことがある。苦労して獲ってきた魚が市場で高く売れ、その仕切り伝票を2人して満足そうに見ている様子は、夫婦仲を超えた戦友にも映る。これはなかなかサラリーマンでは味わえない。動物の離婚話を聞かないのは、雄雌一体となり、餌を集め、外敵と戦い、そのうえで子供を育てる仲では、どちらが欠けても生きていけないからか。第1次産業には、厳しいけれど本来の人間らしい夫婦の生き方を与えてくれる環境があると思う。