2020年3月10日

福島県の海産魚 出荷制限魚種が震災後初の“ゼロ”

「震災前の状態に戻したい」と 意気込む野会長

コモンカスベ2月下旬解除

福島県内の沿岸漁業が大きな転機を迎えた。東日本大震災発生直後に操業自粛を決め、その後は安全と確かめられた魚種から、放射性物質の自主検査(スクリーニング)を伴う試験操業の形で徐々に漁獲量を拡大させて8年弱。2月25日のコモンカスベ(カスベ、エイの仲間)の出荷制限解除で、同県沖の海産魚の出荷制限魚種が初めてゼロ(最大時は延べ44種類)になった。今後は試験操業を拡大させつつ、漁業種ごとに本格操業への移行を目指す。

本格操業移行は漁業種ごと

福島県いわき市の中央台公民館で2月27日、福島県沖の海産魚の出荷制限魚種がゼロとなって初めての組合長会議が開かれた。主催団体のJF福島漁連の野﨑哲会長は冒頭、「これを契機に試験操業をより拡大方向にもっていく」と今後の方向性を語り、「震災以前の体制に戻していきたいという思いだ」と本格操業への意気込みを伝えた。

もちろん本格操業の体制構築を進めるには、試験操業に踏み切った以上に解決が困難な諸問題が立ちはだかることが予想される。ただ、野﨑会長は「福島の沿岸漁業を何としても再興し、ここで生活するんだという新たな決意のもとで進んでいきたい」と漁業者の思いを代弁し、居並ぶ組合長らに協力を呼び掛けた。

福島県沿岸における試験操業の漁獲量

会議中、発言を求めた水産庁の増殖推進部研究指導課の横内誠司課長補佐は「検体採取にご協力いただいた漁業者の方々と、データを取りまとめた県の水産部局のご尽力のおかげだ」と関係者に感謝。国として海産魚が出荷制限ゼロになった事実を「積極的に発信していく」考えを表明した。

福島県における海産魚介類の検査体制

また、これを機に漁業者が出荷量の増加に向けて邁(まい)進することに期待するとともに「今後も国内外の風評対策のために最新の検査データを発信し続けていく必要がある」と、県産魚の安全性確保に向けて手綱を緩めぬ決意を語り、引き続きの協力を要請した。

20年度にも本格操業

会議後は、野﨑会長と福島県の浜通り北部の広域組合で最多の沿岸漁業者を抱える、JF相馬双葉漁協の立谷寛治組合長が囲み取材に対応した。

野﨑会長は「2020年度にも本格操業にこぎ着けたい」と思いを語るとともに「漁業種ごとに検討を進めていく」と今後の手続きを説明し、一律で本格操業に切り替えるのではなく、漁業種ごとに切り替えを図るという考えを明らかにした。

出荷制限魚種ゼロに至るまでには、サンプル採取における漁業者の協力も大きかった

立谷組合長は、海産魚の出荷制限がゼロになったタイミングと同時に、組合内の新地支所魚市場と請戸支所が保有する請戸地方卸売市場で4月から販売業務が再開することに触れて「自分の港で魚を売れるようになったことに喜んでいる」と組合員の声を伝えた。

地元に販売拠点が立ち上がることで出漁意欲が増し「出漁回数が増えていくと思う」と話し、19年はコウナゴ漁が皆無となったため水揚数量が減少した穴をほかの魚が増えることで埋め合わせて、試験操業の水揚量を再び増加傾向に持ち込んで「本格操業に向けてどんどん加速していけるのでは」と話した。

19年不検出99・8%

19年の福島県の沿岸漁業を振り返ると、県による放射性セシウムの緊急時モニタリングは国の基準値である100ベクレル/キロ超えは4年連続でゼロ、不検出の検体数割合も、限りなく100%に近い、全体の99・8%まで高まった。

福島県内の震災後の水産関連施設

ただ、試験操業による年間漁獲量は3584トン(10年比の13・8%)で、記録的なコウナゴ不振により前年(4010トン)から初めて減少する結果となった。20年もコウナゴ資源が思わしくなく、出漁見合わせの可能性が濃厚となっている。操業海域は、原発10キロ圏で自粛しているのを除けば震災前と変わらない状態になり、2年半以上がたつ。そんな中で20年は、今回の海産魚出荷制限ゼロの吉報と販売拠点の増加の後押しで、再び増加基調へと乗せられるかが焦点になる。

試験操業では、水揚げされた魚種ごとに、国の基準値の半分に相当する50ベクレル/キロという厳しい合格基準を課し、放射性セシウムのスクリーニングを行っている。今後は放射性物質の検査体制や隣県との入会(漁場の共同利用)をどうするかなどの細部を詰めながら、震災前と同様の本格操業へ向けた移行シナリオを組み立てていく。

【現地ルポ】県センターの新施設 放射能研究棟を徹底解剖

多彩な測定用機器が揃う

放射能研究棟(手前)と放射能飼育実験棟(その奥)

福島県の漁業者らの復興への歩みを水産試験研究の面から支える、福島県水産海洋研究センター(福島県いわき市)の新庁舎の運用が今年度から始まった。自治体が有する水産試験研究機関は全国に数あれど、放射能研究の専門施設が置かれたのは同センターだけだ。放射能研究の最前線に誕生した放射能研究棟(1209平方メートル)を徹底解剖。そのもてる潜在能力を探る。

放射能研究棟は2階建て。1階には実作業を行う部屋が多く集まる。放射能測定室には、各種の検査機器が増強された。放射性セシウムの濃度を測る「ゲルマニウム半導体検出装置」を新たに2台増設。放射性トリチウムの濃度測定に活用する「液体シンチレーションシステム」、分析結果を組み合わせることで放射性ストロンチウムの濃度を解析できる「ガスフローβ線自動測定装置」「ICP発光分光分析装置」など、各種放射性物質を自前で測定できる機器が揃う。

トリチウム測定を行える液体シンチレーションシステム

従来通り、緊急時モニタリング対象の魚介類の前処理(可食部へ加工)は同施設で行うが、測定は引き続き同じ県の施設である農業総合センターが農産物などと一括で行う仕組みは維持するため、放射能測定室の機器は試験研究にフル活用できる。

「安定同位体比質量分析装置」によって炭素や窒素の安定同位体を調べられるので、魚介類の生息環境や餌料からの物質の動態も併せて分析が可能な環境が整う。隣接する放射能飼育実験棟に、飼料から放射性物質がどのように魚介類に移行するかを試験する飼育水槽6基があり、これらと組み合わせて19年度はヒラメやマコガレイの試験を行った。

下処理用の設備充実

放射性セシウムを測定するゲルマニウム半導体検出装置は2台追加

測定可能な状態に海産物を処理するのに手間のかかる、放射性トリチウムや放射性ストロンチウムについては下処理用の設備も充実している。食品成分分析室の「有機結合型トリチウム分析用燃焼装置」、乾燥灰化室の「中型灰化炉」などがそれにあたり、トリチウム測定に必要な水分収集、ストロンチウム測定のための灰収集もすべて自前でできる。

そのほか、放射性セシウム測定のために魚体を捌く「魚介類処理室」や「海水・海底土処理室」は、外部とつながるドックのある部屋と直結。効率的に作業が進められる環境が整えられている。「海水・海底土処理室」は以前から保有していた「ゲルマニウム半導体検出装置」1台が置かれ、海底土の放射性セシウム測定専用に割り当てられている。

(左)ストロンチウムを測定するための機器群、(右)海底土の調査サンプル。海域、水深、重量などが記載されている放射性セシウムを測定するゲルマニウム

1階にはそのほかに水産加工実験室がある。ミンチ機や食感を測定するレオメーターなどが備えられ、水産加工品開発に向けた調査・研究が可能な部屋となっている。風評対策の一環で、魚介類の付加価値を高める研究ができる機能も放射能研究棟として備えている。

共同研究室受け入れ可

2階は、事務的なスペースが中心。放射能研究部の職員が仕事場とする執務室はもちろん、最大で約70人が使える「セミナールーム」、地元漁師の相談に応じる小会議室的なスペース「営漁・加工相談室」などがある。

ほかに「解析・情報処理室」と「共同研究室」があり、前者は情報通信技術(ICT)を使った水温・塩分濃度・クロロフィル濃度などの情報提供拠点として将来的に活用する。後者は研究者用のスペースで、外部の大学・研究機関が拠点として使うことが想定されている。福島をフィールドとした試験研究のため同施設を活用したいという外部の研究者の受け入れがいつでも可能な状態という。

放射能飼育実験棟内部を2階から撮影。今年度の試験そのものは完了済み

風評対策の一環として加工品開発が行える水産加工実験室

【特集】東日本大震災9年(水産経済新聞20/3/11日付)(紙面のPDFが表示されます)

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