2019年3月11日

基準値超えゼロ46か月 モニタリングの現在 

放射能研究部の平田部長

基準値超えゼロ46か月連続 モニタリングの現在

福島県沿岸の海産魚介類に対しては、東日本大震災から8年経過した今も、県の公的検査(モニタリング)と漁協による自主検査(スクリーニング)の両建てで放射性物質の測定を行い、慎重に安全性を確保しながら試験的な操業を続けている。このうち毎週150検体ずつ実績を上積みして計5万7000検体の検査を行ってきた県のモニタリングは2018年、検体数に占める不検出の割合が初めて99%台に到達した。最前線を指揮する県水産海洋研究センター放射能研究部の平田豊彦部長に聞いた。

福島県水産海洋研究センター放射能研究部 平田部長に聞く

濃度水準さらに低下

福島県における海産魚介類の検査体制

◆直近1年間のモニタリングの結果の傾向について教えてください。

平田部長/モニタリングで国の定める食品の基準値である100ベクレル/キロを超えたのは15年3月が最後で、18年中も基準値超えは確認されなかった。基準値超えゼロの月は、19年1月末までで46か月連続に伸びている。

基準値未満のところでの全体的な濃度の低下傾向は明らかで、18年に調べた6481検体のうち、不検出(ND)が6436検体と、割合は99・3%まで上昇した。17年(98・1%)と比べると増加幅は1・2ポイントだが、大きな変化であると思っている。

海底土経由の汚染

魚介類のモニタリング検査結果概要

◆改めて海産魚介類の汚染で分かっている点を整理いただけますか。

平田部長/海産魚介類は体内の水分を保つために海水を常に飲み続けながら生活しているが、これによる汚染された海水からの移行に加えて、汚染された餌からの移行の2つが主な要因となる。

しかし現在、福島第一原子力発電所から5キロ以上の海域の海水は事故以前の水準に戻ってきているうえ、飼育試験の結果から餌からの移行は大きくないことが分かっている。さらに震災後の知見によって、底魚が生活拠点とする海底土からの移行もほとんどないことが判明している。

そうした知見と、県の継続的なモニタリングの積み重ねを踏まえて、生態的特徴ゆえ影響がほとんどない魚種や時間経過に伴い濃度が十分に低下した魚種から順に、試験的な操業(試験操業)の対象魚種としてきた。今は福島県沖に生息する約200種類の魚種のうちで、出荷制限8魚種を除くすべての魚種が対象だ。

モニタリングの検査機関に送るために下処理をする放射能研究部の職員ら

解除へサンプル収集

◆なぜ今も8魚種は出荷制限中なのですか。

平田部長/制限されている魚種としては、ウミタナゴ、カサゴ、クロダイ、サクラマス、ヌマガレイ、ムラソイ、ビノス貝などだが、これらが特別に高い数値が出やすいわけではない。モニタリングの46か月基準値超えなしとの結果は出荷制限中の8魚種含めてのものだし、解除申請するのに必要な検体数が少なかったり、かつて高い数値が出たのと同じ場所で十分な数の採捕ができなかったり、などの理由で遅れている。

今後も諦めずに十分な検体数を確保することに努め、出荷制限指示の解除にまでこぎ着けたい。

コモンカスベも安定

◆ただ、コモンカスベは2月に再び出荷制限の指定がなされました。

平田部長/1月31日の試験操業のスクリーニングで100ベクレル/キロを超える値が検出された。封じ込めが行われている原発の港湾内から逃げ出した可能性が考えられるが、あくまで推測にすぎない。

基準値超えが明らかになって以降、重点検査を進めてコモンカスベだけで2月下旬までに92検体を調べた。不検出が97・8%で、数値が出た2個体も基準値の10分の1未満だった。十分に安全が確かめられるサンプル数集めと同時に、原発港湾内のさらなる封じ込め強化を東京電力に要請していく。

高まる外国人の関心

◆福島の海と海産魚介類の現状への関心は高いと思いますか。

平田部長/18年度だけで24回の講演を重ねてきた。外務省などを通じた外国人向けの説明が増えている。福島を中心とした地域の日本産水産物の輸入解除にあたり、現状に関心をもっていただいていることを感じる。

一方、日本の方々に説明する機会は今も多くあるが、モニタリングやスクリーニングのこと、試験操業のことを知らない方々が少なくない。引き続きセミナーやイベントなどを通じて、福島の海産魚介類の安全性確保の取り組みを丁寧に説明していきたい。

放射能研究部に集約

◆平田部長の放射能研究部は今年度の新設部署ですね。誕生の経緯を教えていただけますか。

平田部長/昨年、県水産資源研究所が新設され、それに合わせて従来の県水産試験場は県水産海洋研究センターに名称を変更し、それぞれ機能強化が図られたところだ。特に、原子力災害を起因とする研究課題に的確に対応するため水産海洋研究センターの中に放射能研究部が設けられた。
県の海産魚介類の放射性物質に関する調査・研究はこれまで、県水産試験場の旧・漁場環境部によるモニタリング以外に、旧・水産資源部が生態的な知見に基づく汚染のメカニズムの解明、旧・種苗研究部が関連の飼育実験を行うといった具合に分散していた。これらを放射能研究部が一手に担うことになった。

産海洋研究センター完成予想図。放射能研究棟と放射能飼育棟は建物中央

検査機器大幅拡充へ

◆整備中の新施設について教えてください。

平田部長/放射能研究部が活用する施設としては、1209平方メートルの放射能研究棟と約106平方メートルの放射能飼育実験棟の計2棟が整備される。
放射能研究棟では、現在あるゲルマニウム半導体検出器1台のところに2台増設し、計3台を配備する。また、外部委託に頼っていた放射性ストロンチウムの検出器を独自にもつ予定。放射能飼育実験棟では、放射性セシウムの蓄積と排出のメカニズムを解明するための実験を行う。
今後もモニタリング体制を維持しながら、施設や設備も充実することで海産魚介類に対する調査・研究の進展が期待できる。

全容解明で不安拭う

◆放射能研究部の現時点の成果と、今後の見通しを教えてください。

平田部長/新施設建設の工事は順調で、早期に開所できるかもしれないが、現在は施設・設備が十分に揃っていない状態。そんな中でも今年度は、何種類かの魚に関して生態的な特徴と合わせて放射性物質の濃度傾向を分析した結果を一定の成果としてまとめることができた。
新施設の開所後は、震災直後に福島の海と海産魚介類に何が起きて、時間の経過とともにどのように収束に向かっているのかの全体的な解明を進めたい。今以上に全容が分かってくれば、漁業者や消費者の不安を和らげることに寄与できると思う。

【サンプル漁獲乗船ルポ】採取作業、漁師間で協力

写真1

沖底船・昭政丸の一日

県水産海洋研究センター放射能研究部が測定する毎週150検体のサンプル採取は、底びき網船3隻と、刺網船・はえ縄船(シーズンによっては船びき船)4~5隻の漁船を交替で用船して実施している。3日、当番となったJFいわき市漁協沼ノ内支所所属の沖合底びき船・昭政丸に乗船し、現場に立ち会った。

月・水・木・金曜に実施している試験操業では、船主の久保木正一さん一家の3人で漁をする。しかし、サンプル採取では船長を務める息子の久保木克洋さん親子に加え、沼ノ内支所所属の組合員からの応援2人が駆け付け4人で漁に臨んだ。自分の船以外はライバルでしかなかった震災前からは考えられないことだ。

写真2

船のある小名浜港を出たのは午前4時すぎ。30分ほど沖合に船を走らせ、暗闇の中で網を水深80メートルの海底へ投網していく(写真1)。そこから北の塩屋崎沖へ2.2ノット(時速3.7キロ)で1時間半ほど網を引くと、甲板を覆い尽くさんばかりの大量の魚が入網をしていた(写真2)。

対象魚種はすべて持ち帰る試験操業と違い、サンプル取りが目的のために、甲板上での選別作業を1時間以上かけて入念に行う(写真3)。過去のモニタリングから、高齢魚を重点監視する必要があることが分かっていることから、高齢魚を中心に魚種別により分け(写真4)、センターへ渡すためにビニール袋に入れ(写真5)、船槽に収めて帰路に着く。

午前8時すぎに無事帰港(写真6)。当日はセンターが休みのため、この日採取したサンプルは翌4日に届けられた。

写真3

写真4

写真5

写真6

【特集】東日本大震災8年(水産経済新聞19/3/11日付)(紙面のPDFが表示されます)

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