水経セミナー

[2]サトウの切り牡蛎

2013年11月8日

 10月に入り、カキむき作業が始まった。朝起きると、指のすべての関節がガチガチで、手を握ろうとしても痛みでじわーとしか握れない。そのためだけではないが、10月の連載を1回分お休みにし、ご迷惑をかけた。カキむきは軽作業で、重い網を引き上げるのと比べると楽勝と思っていたが、連日、長時間これをくり返すことで、けんしょう炎になる人もいるように、全く別の厳しさがある。

 素人にとってカキむきは難しい。漁労作業であればお手伝いでごまかせるが、これは1個1個が自己責任で結果が出てくる。カキを傷付けると売り物にならない。

 カキは、左手で水をすくうようにして、右手をぴんと伸ばし、上からかぶせたような形をしている。その左手の親指と人さし指の付け根あたりにある貝柱を、メスを差し込み切り取るのであるが、深く入れすぎると、あのぷっくらとした本体に傷が付くし、逆に浅いと貝柱が一部残り本体が裂けたようになる。そこまで厳しくチェックしているとは知らなかったが、最近はスーパーでカキを見ると、つい手に持って、どれどれと見てしまう。

 慣れるまでは、みんなそうだと慰められるが、次々と出荷できない傷カキばかりができて、お手伝いどころか、損害を与えに来ているようで悲しくなる。傷カキでも味は全く同じであるので、それをいただいて帰り、いろいろと調理して食べる。カキは庶民には高級品であり、初めて“もういい”というくらいカキフライを食べた。私がしでかした傷カキの量は半端ではないので、おそらくこの10月だけで、生涯で食べた以上のカキを食べたのではないかと思う。カキが主食で、ご飯がおかずの状態である。

 実は、プロの皆さんでも傷カキができる。人間と同じくカキにもいびつなものがあり、メスがうまく入らないためらしい。それにしても、もったいない。少し安くして「サトウの切り牡蛎」として売ってみようか。餅メーカーからのクレーム覚悟で。