水経セミナー

[5]むきたてのカキは海の味

2013年12月17日

 カキむきの腕も上達し「サトウの切り牡蠣」も随分と減ってきた。まだ、スピードは皆さんの半分以下であるが、それでも毎日1000個以上はむけるようになった。カキむき作業の役得は、何といっても「つまみ食い」。なぜなら、消費者の食べる「生カキ」は必ず殺菌海水処理され、その間に「うま味」が減少してしまうからである。

 お店で買ったカキしか知らなかった私が、カキむき初日に、あのカキのにおいというか海の香りが、一気に部屋中に広がってきたのには驚いた。それは、外で人に会った時に、体から「カキ」のにおいがするといわれるほど強いのである。

 では、ほとんどの方が一生食べることがない、殺菌海水処理されていないむきたての生ガキの味を紹介したい。メスで殻から切り取ったばかりのカキを口に放り込むと、一瞬で口が海で満たされる。海水浴で誤って海水を飲み込んでしまったあの感じである。むいたあとのカキからは、見る見るうちに水分が出てくる。逆に言えばむきたてのカキは海水でぷりぷり状態なのである。海の味がだんだん薄くなると、今度はカキのあの濃厚な味が強くなってくる。そうしてさらに噛み続けると、貝柱や外套膜が歯や舌に感じられ始め、そこから甘みが出てくる。しかし、いちばんの驚きは、カキを食べ終わったあとで、しばらくの間カキの風味が口の中に残り、なかなか消えないのである。これが未知の世界にあるカキの味というものか。

 ある日、朝市でカキをお土産用に予約された旅行中のご家族が、直接カキむき場に来られた。私の後ろで作業を見ていたご家族に、リスクを説明し「食べてみますか」とお勧めしたところ、お父さんがまず挑戦された。その表情はまさに感動そのものであった。躊躇していた娘さんも「私も食べたい」となり、何度もうなずきながら食べられた。生食用カキには徹底した衛生管理が行われていることから、今はどうしようもないが、あのおいしさを、誰でも味わえる日が来るとよいと思う。